普遍を知らぬ者のこだわりは強要である

 
 GWに車で1975km走ったときのこと。
 興部(おこっぺ)辺りで空腹感を覚え、ちょうど良さげな店があったので入った。田舎の割にはお洒落な店外に出されているメニューには、丼物が書かれていた。
 ぼくは腹が減ると必ずカツ丼が食べたくなる。それはもう、無性に。
 店内はカントリー調で小洒落ており、「夫婦で訪れた北海道に憧れて、ついに店を始めました!」という匂いがプンプンする。初々しさもあり、地産地消を謳っているあたりも好ましい。
 当然カツ丼をオーダーするつもりだったが、メニューには「スジカツ丼」はあっても、普通の「カツ丼」がない。眼鏡を上げてまじまじと凝視していると、厨房から店主が小走りでやってきてこう言った。
「“スジ”と書いておりますが、スジの周りには旨味が凝縮されています。ですから敢えてスジ肉を使っております。当然スジは丁寧に取り除いております」
 ほう、ほほう。なんだねその前のめりな感じは。アバラ付近のスペアリブは確かに旨いけど、ほう、スジも旨いのかい。てゆーか普通のカツ丼はないのかね……ない? じゃあ仕方なく頼もうか。
 

 
 ほう、ほほう、衣がすぐに外れそして肉が硬いぞ……うむ、幼い頃に初めて食べたスルメのようだ。確かに噛んでいるうちに旨味が、いやスジのほうが明らかに多いぞコノヤロウ! の画。
 
 うん、煮込もうぜ!