増殖

 
 考えてみれば、すべての生物は増殖するために生きているのかも知れない。あらゆる花は虫たちの気を惹き、受粉を促し、虫は虫ですさまじい繁殖力を見せる。木の実を食べた鳥は遠くへ飛んで種入りの糞をし、新たな植物群落の形成に貢献する。思うに鳥類は食物連鎖の中で比較的上位に位置するのではないか。ライオンも熊も鳥はあまり食べないように思う。体温の高い動物ほど高等である、という言辞はあながち間違いではないのかも知れない。たとえば発熱した人間が高等かといえば、なるほど恋は当てはまるかもしれない。風邪での発熱は体内で増殖した菌を殺すため体が戦っているためで、解熱はあまり良い方法ではない。では恋という大病を治す薬があるのかといえば、ある。虚無を増殖させればいい。大声で叫ぶんだ――「おれは空っぽだけど虚無がぎっしり詰まってる!」
 ネズミのデスマーチ地震予知だというのは眉唾で、増えすぎたために自殺を選んだという説が妥当だろうと思う。たとえば広大な生息地帯を要する鹿などは増えすぎるとストレスで病死してしまう。これは人間にも当てはまるかもしれないが、決して全滅しないことを考えると自殺はひとつの淘汰だともいえる。すべての生物が自死を選んだとき、その胸には虚無が充満しているのではないか。
 世界に終わりがあるとすれば真っ黒な炭素になって終わるらしい。最終的に人類は人類を宇宙に運ばない。最後には繁殖力のあるシダ類などの植物をロケットに詰め込んでコスモに向けて乱射するだろう。まるで精子のように。