寺子屋の欺瞞

 
 チラシ大好きですこです。「この写真はイメージです」とか、もうやめないか。
 今日も長くなっちゃった。ゴメンね!
 
 新聞は大好きなんですが、購読しておりません。というか活字中毒なので、ネットを切った場合は必ず何かを読んでいます。読むといっても、別に本じゃなんくてもいいんです。ジュースの成分表や、四角いアダプターに書かれている意味不明の英語や100円ライターの注意書きでも、何でもいいんです。
 先日、帰宅すると新聞受けに新聞が入っていました。「ラッキー! 間違えて入れやがった!」と、嬉々として開いたら一枚の紙が落ちました。
《モニターのお願い。誠に勝手ながら、今日から三日間この新聞をモニターして下さい》 
 怪訝に思ったので、そのまま閉じて外に出して置いた。というのも、以前に来た勧誘が酷かったのだ。
 ぼくが何度も丁重に断っても、彼は土下座をする勢いで懇願し続けた。あまりにしつこいのでドアを閉めようとすると、彼はドアの隙間に強引に足を入れたんだった。
 さすがに腹が立ったので「このウスバカゲロウ!」間違えた、「ウスラバカのオタンコナス!」とレトロに罵倒した。
 すると彼は、さっきとはうって変わって「あっそ、じゃいいわ」とひるがえったのだ。
 逆毛が立つほど腹がたったのだった。
 
 以来、セールスを一蹴する技を会得したので、みなさんもお役立て下さい。
 
・新聞勧誘の場合
「親戚が○○新聞なものでお断りします」。
 ここの「○○」はパンチの効いたヤツがいい。といっても、二種しかないが。
・布団のセールスの場合
「親戚がフラミンゴなもので」。もしくは、「樹の中で血は立ったまま眠っている」と寺山修司のフリをする。片眉と片足を上げて!
・N○Kの場合
 これは実話なんだが、強面のぼくの叔父は、集金係に対して「日本中のヤツが全員払ったら、おれが最後に払っちゃる!」と、のたまった。それでもしつこく食い付いてくるので「お前じゃ話にならん! 偉いヤツ呼んでこい!」と追い返した。
 数時間後、パリっとしたスーツ姿の、いかにも重役が来た。叔父もいよいよ腹を括ったのだろう、でっかいガラスの灰皿をテレビのブラウン管に目掛けて投げつけたのだ……。
 
 余談だが、その昔、たしかぼくが小学生の時に叔父の家に遊びに行くと「お前、ちょっとこいや」と外に連れ出された。
 庭にはジープがあった。叔父が所有していた、恐らくは三菱自動車製だった。
 叔父は金属バットを二本持ってきて、ぼくに一本手渡した刹那、おもむろにバットでフロントガラスを割り、ボンネットに上がって屋根をバッコンバッコンぶっ叩いた。
 息が上がった叔父は「ですこ、お前もやれ」と言った。
 まずは申し訳なさそうにテールランプを割った。続いてバンパー、更にリアガラス。不思議とテンションが上がってくる。バッコンバッコンぶっ叩いた。
 閑静な住宅街には、使い方の間違った打音がこだましていた。
 いよいよボンネットを破壊しようとすると「よし、もうやめろ!」と、叔父が言った。
 叔父は、ベコンベコンのジープを運転して、消え去った。
 後で聞いた話だが、叔父は近所の自動車修理工場で廃車手続きをしたようだった。
 いまになって、あの時の叔父がなにをしようとしていたのかは朧気に解るが、ぼくになにを伝えようとしていたのかは、未だに不明である。
 ちなみに、叔父にはぼくと年の近い息子が居る。彼は、頭髪を金色にするべく、プラモデル用のスプレーで髪を染めたんだった。あの親にこの子、と言うべきか。ハッキリ言ってしまうと、家族全員バカなのだ。ほんとうに、ほんとうにバカなんだ。
 一応、名誉の為に言っておきますが、叔父は紛れもない堅気であります。
 
 春に、母が入院していた時、兄と一緒に叔父の家に行ったんだった。居間にはでっかいプラズマテレビがあった。
 十数年ぶりに会った叔父は、否が応でも丸くなっていた。孫娘を腹に乗せながらちゅっちゅしていた。だが、迫力は相変わらずだった。いかんせん、人相が悪い。
 ぼくは訊いてみた。
「おじさん、N○Kはやっぱり未だに払ってないの?」
「あたりめーだろバカヤロゥ! ニュースなんか見ねっての」
 50インチのプラズマには、お江戸でござる桜金造がデカデカと映っていたのだった。
 
 話が逸れた、勧誘の話だったか。
 以前、実家に帰ると複数の新聞があった。ぼくは母を問い詰めた。
「なぜこんなに新聞がある? 脅されたのか?」
「……」
「脅されたんだな? いまから販売店へ電話しよう」
「違うの…」
「景品に惹かれたの?」
「そうじゃないの…」
「じゃあなんだよ」
「アンタと勧誘の人がダブったのよ…」
「……」
「もし彼が、アンタだったらと思うと、つい…」
「お人好しにもほどがあるぜ!」
 とは言ったものの、彼女の中で如何に、ぼくに対する評価が悲観的なのかが垣間見えて、ぼくは密かに凹んだのだった。同時に、彼女の慈愛を感じたのだった。
 
 散々書いて、言い訳じみているかもしれないが、新聞拡張員というのはヘビーな仕事だと思う。職は違えど、誰もやりたくない仕事こそがヘビーだと云えるし、そこが由来の恩恵を、上澄みをぼくはやっぱり享受している。
 誰かがやらねばならないし、ソレを回避するが為の勉強に励む記憶バカどもが、なにかなんとかしようとかしてやがる。クソだ、クソすぎる。つーか、クソしてぇよ。ぼくはいつもそういう事を考えている、なんてのは、まあ、言い訳さ。キモイなぁ、おれ。それに、臭いぜ。まったく!