TAO ROCKET 2006

 
 愛用しているタオルケットが、なんかジンギスカン臭いですこです。
 その臭いは肉なのか、タレの臭いなのか? と問われれば、「肉をつけて食べた後のタレだ!」と答えるでしょう。
 
 わたくし幼少時から、就寝の際に顔面にタオルケットを巻き付ける、という癖がございまして、それは今でも続いております。なんと言いますか、自分の匂いで安眠できると申しましょうか。ですから、外泊の時などはなかなか寝付けないのです(呑めば平気)。
 いつもは己臭(おのれしゅう)を嗅ぎつつスヤスヤ眠るのですが、ここ最近どうも違和感を覚えるのです。なんか、臭いのです。本来の己臭じゃないのです。
 いよいよ来たのでしょうか。
 年を追うごとに時間の流れは集合太鼓のようにわたしを捲し立て、運動量も食事量も変わっていないのに腹だきゃあ出てきやがる。誰が為に腹は出る、その腹を出すのはあなた、除夜の腹。(ところでどなたか「腹腹時計」という名著を持っていませんか?)
 ついにわたしの体に棲みつき始めたのでしょうか――『加齢臭』という魔物が! くっさい洗礼を受けるべき時が来たのでしょうか。
 
 確か以前に「加齢臭の所以は近親相姦防止の為だ」と、イギリスの研究者が言っていました。近年の晩婚傾向は別として、いままでは普通、父親が中年になったころに娘は思春期でした。初潮を終えて、子供を産むことができる体です。近親相姦などという行為は極めて希ではありますが、それらを未然に防ぐ為に、加齢臭という哀しきバリアーがあるってわけです。愛娘のために十数年ものあいだ四六時中働いて、娘の胸部が隆起してきた頃にオトーサンは嫌われる、という事です。少なくとも嗅覚では、です。
 カメムシは自らを守る為に異臭を放ちますが、オトーサンは家族を守る為に異臭を放つのです。一家の主が怪訝される事によって、血族は濁りなく維持されるのです。
 考えてみて下さい。どこの集合体にも嫌われ者はいますし、彼によってその集合体はいつだって浄化されているじゃありませんか!
 頑張れオトーサン! くっさいオトーサン! 鼻つまみ者と呼ばれようが、あなたはくっさいけれど、一つの偉大なるキムコである!
 
 以上は「娘を持つ父の悲哀」であります。
 だが悲しいかな、独身男でも加齢臭の洗礼は受けねばなりません。よく『人間は賢い』などと言いますが、『否応なしに誰もが臭くなる』と考えると、人間ってバカですよね。もっと気を遣えよ、能なし臭腺ども! 出しゃあイイってもんじゃないだろ。
 その臭いは、家族なら耐えうるでしょうが、他人はなかなか耐え難いって事は、わたしも重々承知しております。
「四十路独身男たち4人が居酒屋個室でムンムン加齢臭談義」とか、キッツいなぁ。SECOM鳴れ! ウィンウィン鳴れ!
 
 そうして夜の街に、足の裏で放り出された毒男は、豹柄のしなびた夜鷹を捕まえて、そのうち同棲を始める――
 
「お前さ、なんで醤油を冷蔵庫にしまうの?」
「だって腐っちゃうじゃん」
「醤油は暗所に入れれば腐らないだろ、戸棚とかよ」
「いいじゃん! 別に!」
「じゃあ、このシュークリーム喰ってみろよ」
「…美味しいじゃん」
「醤油くせーだろ!?」
「アンタよか臭くないわよ!」
 
 とか言われるんだろうナ。
 誰か、こんなおれに合いの手を。