だれかマッチとガソリンよこせ

 
 季節の変わり目のせいか、やたら鼻水が出る。風邪でもひいたのかしらと思ったが、熱はないし咽喉の痛みもない。鼻だけがむず痒い。鏡を見てみると、異様に伸びた太い一本の鼻毛がヘアピンカーブを描いて隣の鼻孔をうまい具合にくすぐっていた、ことですこです。
 文字通り太ぇ野郎だ。抜こうと思ったが、これほどの御神木の根を絶やすのは如何なものかと思い直し、カットにとどめておいた。ジェントルである。
 
 およそ二週間ほど続いた隠居生活は惜しくも終焉を向かえ、月末からは激務なのです。面白くない。余は面白うない! これだけ働いても減給のままだものね。余はもう働く意欲がないぞよ。それでも働かねばならない、生活のために――嗚呼、生活! なんと無機質で他人事の響きなんだろう! セ・イ・カ・ツ! 降り注げ、そして突き抜けろ、セイカツ!
 多忙モードだと愚痴しか思い浮かばないので、こういう時は時事ネタで埋める。
 
・幼女殺害の小林薫被告に地裁が死刑判決
 被告の名前は良い、なんていい名前なんだ。「かおる」という名前には悪い人間はいないはずで、いずれダライ・ラマに後任を指名されるであろう名なのだが、小林被告は例外のようだ。
 この事件が起きたときぼくは「彼は死刑を望んでいるが、例え幼児でも一人殺害じゃ無期だろう」と予測したが、わざと悪態をついたり、裁判所に死刑を望む嘆願書を提出したりと、被告の“努力”が実った結果だろう。
 しかし弁護側は控訴する模様なので、確定するには小林被告本人が控訴を取り下げねばならない。彼が本当に〈第二の宅間守〉を自認するのなら、彼のように速やかに取り下げなければならない。果たして、どうなるか。
「そんなに死にたきゃ黙って独りで死ねばいい」というのは最もポピュラーな批判だが、彼らには根深い復讐心があり、それは大抵弱者に矛先が向かう。
 見方を変えれば、彼らは復讐の代償として自らの命を掛けているとも云える。無論そこに正義は皆無だが、それは命を捧げる対象の違いで、彼らなりの『自爆テロ』なのかも知れない。抑圧や不満の鬱憤を炸裂させて、社会という強大な幻想へのアピールだとも云える。確実に対象が判ればその人間に復讐すれば済む話だが、彼らには明確な対象がないし、もし判っていたとしたら、その人間をいつしか赦すだろう――そう、我々と同じく。
 彼らは浅はかだが、根は深く、闇はとても暗い。闇が広くて大きいのかも知れない。
 
・札幌市中央区で女児二人遺棄で稲見淳容疑者が逮捕
 比較的近所だが、我が家の界隈よりは高級で、且つ怪しい。つまりホステスとチンピラが多い。以前に発砲事件で人が死んだのもこの辺りだと記憶している。
 歓楽街も近くて巨大な公園もあり高級マンションが乱立している。駐車違反の取り締まりで、拡声器の警官がどんなに呼び立てても持ち主は絶対に現れなくて、速やかにレッカーされてしまう。何故か? 別件逮捕されるくらいなら車を捨てた方がマシだからである。その車も曰わく付きであることは言わずもがな。
 そういった場面に出くわす、結構ヤバイ界隈である。或る国道より東は別世界で、ぼくの家は辛うじて西に位置する。つぎに引っ越すとしたら、もちろんもっと西さ! 不思議なもので、昼間はあんなに綺麗で安全だった公園は、夜にはドラクエ状態になる。ニューヨークみたいだね! カッコイイね!
 その公園には大きな池があって、昼間はカップルがボートに乗ってチュッチュしている。絵に描いたような風景。若かりし日のぼくとsoichikoは、真夜中のボート乗り場に忍び込み、しまわれたオールの代わりに床の木材を無理遣り引き千切るという蛮行の末、目出度く深夜のボートを堪能したのだった。見上げた夜空に満月ぽっかり、最高のロケーション――むちゃくちゃである。
 話を戻そう。
 稲見容疑者は「面倒を看てやるからウチに来い」と持ちかけ、母子で向かい、住んでいるうちに稲見被告の執拗な暴力行為の末、幼い子供が殺害、遺棄された。同居期間も出会いのきっかけも判らないが、被害者の母は既婚者だったようで、夫は捜索願を出していたらしい。
 いよいよ裸足で逃げ出した母は、這々の体で警察に通報した――ぼくが不可解に思うのはこの点である。なぜ旦那に電話をしなかった? 通報の時点で自分の子供が二人も死んでいるのに、なぜ? 捜索願いを出すほどの旦那である。なぜ?
 様々な憶測が思い浮かぶが、ここで重要なのは稲見容疑者の蛮行の所以である。殺害した子供は自分の子供ではない。他人の子供を育てるのはいかに大変なことか。雄にとって、別の雄は敵である。敵の子孫は己を脅かすの敵である。傍から見れば「子供なんだから」と言うだろうが、自分が育てている子供が、成長と共に自分の敵に似てゆくのだ。妻はふとこぼした「アラ、その仕草お父さんソックリだわね」――もう、目も当てられない。どう思いますか。なんて身勝手なんだろう、そう思いませんか、なにがって親が、だ!
 バツイチ同士が結婚した場合、大抵は女に連れ子が居る。若ければいつしか弟妹、つまり“本当の結晶”が生まれる。残されたオマケのような連れ子たちは絶対にグレるね。ってゆーかグレろ。暴れて、殴って、世界中に放火してやれ! やっちまえ! ぼくは本当にそう思う。彼らに撲殺されるのなら本望さ。かまうことはない! やっちまえ! アンファン・テリブルども! ぼくは全面的に荷担するだろう。
 
・吉野屋の牛丼、数量限定で復活
 だが、北海道では『時間限定(11〜15時だったかな)』で毎日提供されるらしい。羨ましい? BSEの被験者だけど、なにか?
《試される大地》とはよく言ったものである。