ダイエット考

 
 黒革のウガンダ、ですこです。
 
 家賃を払いに大家宅へ出向く。天気も良いし自転車に乗って、その足でヨドバシカメラに三脚を買いに行こう、とMTBに跨ったが両手がグリップに届かなかった。春に買った細身のレザージャケットが、更に肥えた所為で前傾姿勢になるとピチピチで動けないんである。
 仕方ないので片手運転で出発するが、見るからに間抜けな曲乗りである。ヨドバシカメラまでの道程を、わざわざ恥をかく気にはなれなっかたので引き返す。
 しばらくの間――およそ一ヶ月ほどは家では炭水化物を食べていないし、飲み物もアルコールを除けばほぼ水しか飲んでいない。アルコールは蒸留酒を選択し、ビール等は休みの前日、週に一度しか飲んでいない。
 それなのに太るんである。もう、呪われているとしか思えない。
 おそらくは、すでに一線を越えてしまったのだろうと思う。食事制限等の消極的なダイエットがなんの効果も示さないくらいの体質になってしまったんだろう。そうなってしまうと例え断食してもやつれてしぼむだけである。
 いよいよ自分で自分を亀甲縛りにして、尻を爪先で蹴り上げてどこかに放り込まなくてはならない。夏辺りは積極的に自転車に乗っていたのだが、正直言って自転車はダイエットに効果的ではない。なぜなら本来、自転車というものは《走るよりも速く快適に》という目的で造られたものであるからして、ジョギングを10km走るとすれば自転車だと最低50kmは走らないと帳尻が合わないのである。ましてやスポーツ車ともなると、重量は軽いわパワーロスは少ないわで、ダイエットとは逆方向に進化をしているのだ。
 齢五十にしてレースに出場しているK師匠の話を聞けば、夜のお仕事なので帰宅は午前2時過ぎ、我々昼間の労働者とは違って帰宅後に余暇はなく、すぐに寝るそうだ。午前3時に就寝して起床は10時、そこからが《自分の時間》なのだそうだ。仕事を終えて帰宅して、テレビを観たり酒を飲んだりする一般人の生活とは随分とサイクルが違う。
 起きて朝食を摂り、あとはひたすら自転車に乗るそうだ。K師匠はこれを『練習』と呼んでいたのが印象深い。K師匠曰く――
 
「だからお前も早く寝てよぉ」
「早くって、何時?」
「21時とかよぉ」
「老人じゃないっスか!」
「んで5時に起きてよぉ」
「ご、5時!?」
「そっから出勤までの間に乗るんだよぉ」
「じゃあ19時に帰ってきて寝るまで2時間しかないじゃないっスか」
「その2時間でメシ作って喰えぁいいじゃねぇか」
「ヒィィッ!」
 
 と、つまり以上のような事なんである。醜いか体から美しい体を造るにはそこまで追い込まないと無理なんである。K師匠は異常なまでの自転車フェチだから実現できるのであって、普通の人は自転車でそこまで追い込むのはまず無理だ。ゆえにスポーツジムという有料の監獄が繁盛するってわけだ。
 早速調べてみたが、地方都市札幌にもじつに様々なジムが点在しているようだ。各ジム特色を出していて、我が家の近所には本格的なパワーリフトのジムまである。しかしどこのジムでも女性の利用者が過半数をしめている模様。
 
 想えば、昔はこれほどの数のジムはなかったし、デブも少なかった。逆に、中世の富豪ではないが、かつては比較的経済力がある事の象徴がデブだったようにも思う。色褪せたセピア色の写真にはデブはあまり写っていない。
 食生活がアメリカナイズされている顕れでもあるし、24時間営業の弊害でもあるだろう。そう考えると、ダイエットというのはまことにばかばかしい。喰わなきゃいいものを食べて無益な運動を繰り返す――胃袋を通過した、うんこのでかい醜い拒食症である。
 
 ぼくはデブが嫌いである。満腹中枢を悦ばせながら自律神経に失調をきたす人間が嫌いだ。だがぼくもそうなりつつある。
 かつて肉体を鍛えていたので、よく知っている。体は絶対に嘘をつかない。鍛えれば鍛えるほど面白いくらいに必ず効果に表れる。それもたったの二週間ほどで。
 
 よし決めた! やるゾ! 来年から(ほらまた)