日常の相殺

 
 マリオの件で検索サイトから訪れる人があまりにも多くて怖くなり、一部伏せ字に改ざんしたヘタレですこです。
 
 今日日のキッズ達は自力でR○Mも探し当てられんのか、と落胆しております。
 P2Pが普及する前は違法ファイルの入手が大変だった。mp3なんかは「もせ」と呼ばれており、うp主に掲示板でわざわざ感謝しなけらばならなかった。うp主はすっかりわらしべ長者気取りで、いま想えばバカバカしくも微笑ましい沙汰であります。
 
 先日、普段はやらないネットサーフィンをしていると(いつもは決まった所しかいかない)『音楽の素材屋さん』を発見した。同じような素材屋さんが結構たくさんあって驚いたのだが、その中のサイトでやたらと規約にうるさいサイトがあった。
「必ずお礼を言うように!」だの「Flash等に使った場合は必ず報告するように!」だのと口やかましく、些か高圧的だった。しかも音源に辿り着くまでには広告を載せた幾つかのサイトを巡らなければならなかった。金銭目当ての広告ではなく、ボランティア系の広告だったが、ぼくはそこに管理人の歪んだ人物像を想い描いた。
 彼は、あらゆる人から感謝されたいのである。
 反吐が出たね。こういう場合はカネの方が綺麗だ。小銭を掻き集める行為は醜くはないでしょう?
 肝心の音源を聴いた。いくつかは既知のサウンドで、それは市販のフリー音源を切り貼りしている物だった。ヘッドフォンで注意深く聴き込んだが、おそらく全てがフリー音源だと思われた。特徴として“異常なまでのノイズの少なさ”が挙げられて、自演じゃなくとも、手持ちのCDからサンプリングした場合でもその音源にあったノイズは必ず聞こえるもので、劣化しないデジタルなら尚更だ。
 打ち込みにもノイズは乗らないが、打ち込みの場合はもっと異様な物、個性が必ず出てくる。ぼくは楽器演奏家崇拝主義者ではない(ブライアン・イーノを見よ!)。
 彼は単にフリー素材を切り貼りしている“素材屋さん”だった。素材の持ち味を活かしすぎである。いや、エフェクトくらいはかけてるのかも知れない。そして彼はうっとりしてこう言うのだ――「音楽の神様が降りてきた!」
 今をときめくレイ・ハラカミは、デビューしてからも京都の風呂無しアパートに住んでいて(昔のQJで読んだ)、音源は十年以上前に流行ったRoland SC-88Proのみを、未だに使用している“音楽の虫”である。愛を感じる。愛だろ、愛!
 
 Ulf Turessonの中古が500円だったので即買い、蛇廻し。彼は、原田知世が唄った「ロマンス」の作者である。今となっては時代遅れのサウンドだが、楽曲自体に時代は関係ない。ポップミュージックの美味しい部分がたっぷりと詰まっていて、ぼくは唸りっぱなしだ。スウェーデンには才人が多いなぁ。ボニピンがパッとしないのは本人の所為ですよ! トーレの所為じゃねえ。
 
 終業後、長から「今日、暇ぁ?」と猫撫で声で訊かれる。理由は判っていたが敢えて知らんぷりをしていた。自家用車の車検だ。改造を多数施しているので普通の店では扱って貰えず、少し離れたショップまで持ち込まなければならないのだ。
「まあ、暇っちゃー暇ですけど」勿体ぶって言う。
「あのさー」と言ってすぐに、「車検ですか?」と畳みかける。さらに「代車は出ないんスかー?」と、今度は呆けた口調で言っておく。
「それが、出ないんだよー。で」
「いいですよ。お付き合い致しましょう!」と豹変しておく。
 後ろに付いてショップまで走り、帰りは長を助手席に乗せて帰路を走る。
「いやーすまんなー」
「全然いいです(タクシーで行けや)」
「しかしこの車はうるさいなー」
「軽の幌ですからネ(食べかけのガムで耳を塞いだろか)」
 
 環状通の信号待ちで、台詞を吐く。小さい声でいい。
「アッ」
「どうした?」
「ガソリンが危ういかも知れません」
「なにっ?」と運転席まで乗りだしてきて「まだ少しあるじゃないか」と仰った。
「ぼく、余り乗らないので計器はあてにならなのです」
「じゃあすぐに注入したまえ」
「あそこのJ○M○に行きましょうか」
「うむ。そうしよう」
 J○M○の店員は態度が良くて好きだ。なにより好きなのは、会社ではJ○M○カードで一括清算している所である。交通費が別で出ているぼくはJ○M○の恩恵に与った事はほとんどない。
「オラーイ、オラーイ」と店員は威勢が良い。
 店員が助手席のドアを開けて、ぼくは腰を上げて尻の財布を取り出し、まごついた仕草で千円札を一枚取り出した刹那、長は仰った――「これで」と、伝家の宝カードをお出しになられた。
 きょとんとしている店員に、「満タンで」と耳打ちする。