シ十

 
 チャー、シュー、メーン! って言ったら天津飯もってきて下さい、ですこです。
 いや、ぼくが考案したギャグじゃない。“途轍もない漫談家”が、つかみに使うギャグなんです。IDのある人はニコ動の sm280646 の後半部分を、是非とも観て下さい。絶対に面白くないけど、絶対に笑えます。保証します。ぼくはもう五十回は観ました。
 
 ラーメン熱が再燃しておりますので、ずいずいと食べ歩いております(正確には自転車ですが)。やはりね、呑んだあとならいざ知らず、ススキノ界隈はだめだね。なんか「駄目な共通点」があるんだな、これが。国道36号線より北か、あるいは石山通りから西じゃないとだめだ。
 そんなわけで今回は大通り西8丁目に在る〈S寿〉に行ってきた。中心部だが、非常に分かりにくい場所にあり、ラーメン屋としては珍しく地下に店を構えている。当然、昼時は混むだろうから午後一時半出発して、まったり漕ぎつつ、ビアガーデンの誘惑を振り払いながら到着は午後一時五十分。人気店ならば、まだ客が並んでいてもおかしくない時間帯だ。
 入手した当初は盗難を懸念して停めるべき場所を思案していた我が自転車も、今となってはどこにでも停めるようになった。標識があればその柱に、なければ木に。それもなければ地面に倒す。最近は夜のススキノでもそれなりの自転車が氾濫していて、そうなるとワイヤー錠を括り付ける柱なりが足りなくなってくる。念のため書いておくが、スポーツ自転車にはスタンドが無い。早い時間から屋台風のお店で呑んで、帰り際に自転車を取りに行くと、他に立てかける場所がないせいで、街路樹に巻き付けてあるぼくの自転車に三台ほどの自転車が立てかけてやがるではないか。「うわ! 除けるのめんどくせ!」と思っていると、慣れた様子の持ち主たちがぞろぞろと現れてきて「すいませんすいません」と言いながら、各々の自転車を除け始めた。そんなわけで、ぼくの自転車はすっかり傷だらけになってしまった。でもそれでいいのだ。傷のないMTBほど格好の悪いものはない! もっとも、山を走って付いた傷じゃないけど……。ほらそこ! 「自転車でも飲酒運転は犯罪ですぅ」とか言うあなたよ。ぼくたちね、帰りは押して行くのよ。えらいでしょ?
 閑話休題
 店内は、厨房の向かえのカウンターが六席ほど、四人掛けテーブルが一つ、端に雑誌置き場兼四人掛けカウンターといった塩梅で、ごく普通の佇まい――いや、今どきの店としては古めかしい部類に入るだろう。先客は五人、待ち時間なしでカウンターに座り、味噌を注文する。夫婦と思わしき二人で営んでいるようだ。一応クーラーはあるが、店内は暑い。だがそれでいい。温いラーメンが許せないぼくは、店内の暑さくらいは我慢する覚悟でいる。ラーメンが出てくる。濃厚そうな味噌のスープに、チャーシュー、メンマ、ネギ、そして驚くべきことに煮玉子が浮いているじゃないか! まずはスープを啜る――。
 早くも数件目にして、もう終わったよ、ぼくのラーメン探求は。だってもう、決まっちゃったもん。
 あのね、旨いんだよ。但し、劇的に旨いわけじゃない。というかラーメンの旨さのMAXってやっぱり決まってると思うんだな。たかがラーメン、と言っちゃえばそれまでだけど、所詮は数百円の食べ物なんだ。上カルビとビールのコンビネーションに勝てるはずがないし、勝つ必要もない。お金の対価としてそれなりのものでいい。
 最近はやたらと能書きの多いラーメン屋が増えているけど、この店にはそれがないし、余計な店員もいない。手を後ろに組んで麺の茹で上がりを待つだけの店員がいながらにしてお水はセルフサービス、という理不尽なこともしない。あと、昼時を避ければすぐに食べられる。これ、かなり重要。とどめはデフォルトで煮玉子だぁ! そして六百八十円という適正価格、申し分なし。
 
 ですです総合評価
 ★★★★★★★★★☆
 検索回避のために店名は明かしませんが、リンクを★に貼っておきます。
 え? 〈S未〉? うまかったけど、もうラーメンに何十分も並びたくないんだ。だからこの店は、今が喰い時だぜよ。いますぐ行っとくべし。
 
 
 帰宅後、マイブームの桃を食べる。四個で五百八十円と、ネクターよりも高い。じつは最近まで、自分で桃を剥いたことがなかった。ピーラーで剥いてみると、あの厚い皮が引っかかってうまくできない。無理遣りわしわしとやっていると果汁が溢れ出てきてしまったので、最終的にはかぶりついた。桃を手にとってまじまじと見つめながら、うまく剥ける方法を考えてみた。こうして見ると、本当に尻とよく似ている。この産毛は一体なんのためにあるのだろうか。しかも桃色じゃないか。これに後れ毛が付着していたのなら、デザートよりも“オカズ”に相応しい。嗚呼、この桃野郎、いや桃姐さん。「御免!」と眼を瞑りながら発して、包丁の先を尻の穴に突き刺す。種から外れないように包丁を当てがって、割れ目に沿って左手で桃を廻す。始点まで到達したら、切れ目を中心に両端を軽く掴んで、アボカドをそうするようにぐりぐりと捻る。だが、アヴォカドのような野蛮な濁点を纏っていない繊細なピーチは、明らかに拒絶しながら、しかし果汁はじゅんじゅんと横溢してくる。種から引き離すことをやめて、切れ目から脱がすことにする。皮をつまんで乱暴にずり下げると、いとも簡単に肌が露わになった。オーガズムを獲得するまでには、本当ならば薄皮を一枚ずつ剥がすような根気と時間が必要だが、ピーチには圧倒的な性的才能があるようだ。拒絶を一枚剥げば、そこはまさしく桃源郷だった。種までむしゃぶりついて、ぺぇとごみ箱に吐き出した。本来ならば動物が桃を食べて、胃袋列車に乗って移動し、消化されない種は排泄物と共に遠い土へ連れていかれて、そこで新たな繁栄が始まるはずだった。偉大なるポテンシャルをぼくは、ただ甘いという理由だけで終わらせてしまった。そしてその蛮行に付随する後悔はぼくを欲情させた。チャックを下ろしていちもつを露わにしてみる。矢印みたいな形、これは昔に学校のビデオで観たミツバチの針と同じ仕組みだ。あのニードルは雌しかもっていなくて、一度刺すと二度と抜けないように“かえし”が付いている。だが本来は卵管で、卵を産んでいる時になるべく抜けないようにするための理法に違いない。けれど、どうして人間にはその“かえし”が雄だけについているのだろうか。しかもミツバチのような一撃必殺の能力もない。そんなことを考えていると、さっきまで矢印だったぼくのいちもつは、だんだんとしぼんでほとんどイチジクみたいに変容していった。「イチジク浣腸!」とひらめいて、冷蔵庫の桃を取り出し、合体してみる。ぐりぐりと圧しつけてみる。ふさふさした産毛が心地よかったけど、夜中にちくちくして眠れなかったんだ。