運動会と唐揚げ

 
 セーンチメンタルじゃーきーにぃー♪、こと竹原ですこです。
 
 雨が振りやがってよぉ、おれの車は雨漏りするんだよぉ。至るところ錆びてるしよ。洗車? 年に二回っきゃしねえよ。おう、車検の時な。いいんだよ、結構綺麗だぜ? ガレージ保管だからな。オートバイ邪魔くせえなぁ。もう乗らねえんだよ。チャリの方がいいね、信号無視できるし。あー、車欲しいなぁ。新車、乗ってみたい。つーか、パワステとかパワーウンドウに乗ってみたいよ。今朝よ、南に向かって走ってたら信号が赤になってよ、左側に傘を差した女子二人組がいてよ、なんかちらちらこっち見てんのよ。なんだよ可愛いじゃねえか、たぶん中学生だな。そしたらこっちに歩いてきてよ、どきっとしたね。いや、びくっとしたね、ちんぽが。もの凄い速さで充血したよ。呼気じゃなくて機械を使って膨らませた風船みたいな感じ。堰を切るとはこのことだな、なんて思ってると、こんこんと窓をノックしてきやがって、俺はいよいよ財布の中身を換算したぜ。相手は二人、ひとり一万として計二万円、オプションでおしりもいれると五千円増しってところか。いやまてよ、淫行罪の口止め料としてそれぞれ五千円かぁ。うーん、カード使えないかな。無理だよな。なんとか値切ってみよう。そうさ、声を掛けてきたのは向こうだしな。あーっ! バイブの電池切れてるわー !くぅー! と頭を掻きむしっているともう一回ノックの音が聞こえたから、体を伸ばして助手席の窓をくるくる回して開けてやった。「みなみ十一じょうはどっちですか?」と訊いてくるので、無言で西を指してやった。あっちの山には修道院があるんだ。売春はよくない! 朝から善行をすると気持ちがいいなぁ! 昼休み、小便にトロミがあったぜ……ハハハ! こりゃおかしいや! ハハハハ!
 しかしカネがないなぁ。まぁ貧乏なくせに遣ってるからないんだけどよ。コンデジ買ったのいつだったかなぁ? そのあと一眼買ってるしな。ついでにSDもCFも4GBにしちゃったもんなぁ、そんなに要らねえのに。お母ちゃんのお遣いも立て替えてるしなぁ。幾らか忘れちゃったよ。まさか請求するわけにもいかねえしなぁ。まいったなぁ。つーか、メモリーカードの金額設定って汚いな。あれぜったい2GBも4GBもコスト同じだよ。トヨタカローラばっかし売れてると儲からないらしいしな。やっぱ付加価値がある高級車が売れないと儲かんねえんだろうな。しかしあれだね、カメラっちゅーのは凄いね。買ったその日からそこそこ撮れるってところが凄いな。それを作ったメーカーも凄い。これ、楽器だとそうはいかないからなぁ。つっても一年でかなりうまくなれるけどな。毎日三時間弾けば確実に上達する、って当たり前だよな。経験者語る、だよ。おれもうギター歴二十年だからな。二十年ってめちゃくちゃ長いけど、その割には下手くそだけど、まあいいじゃないか。おれは一年くらいの独学で基本を極めたな。一年つっても毎日6時間弾いてたけどよ。堪らなかったね、好きで好きでどうしようもなかった。自慢じゃねえよ。好きこそなんとやらだ。ピアノ習いに行こうかな。コードとメロディを同時に弾けるのがピアノの最大の利点だな。ギターでも可能だけど、作曲というよりも、曲芸じみちゃうんだよね。昔ピアノ習ってました、って女の人はたくさんいるけど、今でも続けてますって人は少ないなぁ。勿体ねえなぁ。これは癒しとかそういうことを関係なしに、表出って大事だと思うな。対処ばっかりしてると草臥れてくるんだよ。なにごとにも模倣期間は必要だけど、いつかオリジナルを創らなきゃね。ほんとうの表出って面倒臭いけど、だから価値があるってことだな。祭りの火種、ジャンボリーの萌芽だぜ。
 写真載せるの面倒臭いからあれだけど、Robert Jr. LockwoodのDVDを買ったぜ。ゲイトマウスのときもそうだったんだけど、九百八十円なのな……怪しいぜ! やっぱ値段相応でしょぼいなぁぁぁぁっ! 12弦エレキの弾き語りかよ。まあでも動くロックウッドを拝見できただけでもよしとするけど。それにしてもロバート・ジョンソンのギターは凄まじいな。よくジャズと比較してブルースギターを蔑視する人がいるけど、大きな違いはブルースマンは唄いながら弾いてることだぜ。唄いながらギターを弾くジャズギタリストなんかほとんどいない。これ、もの凄く重要なことなんだよ。表出の音楽――あ、いまおれ凄くいいこと言ってる。なんか震えたわ、自分の発言に。やべぇおれ凄すぎる。
 腹へったなぁぁぁぁっ! 今日は唐揚げを作るかな。日清の唐揚げ粉があるだろ。あれ喰うと運動会を想い出すね。お母ちゃん忙しかったから運動会には来なかったな。だから同級生の友達のところのゴザを間借りしていたんだな。弁当だけ持って行ってそのおばさんに渡すんだ。おれは足だけは速かったからだいだい一等賞だ。でも誰もおれを誉めない。ゴールを切っても振り向く場所がないからなにごともなかったような顔をしていたな。最悪なことにその同級生はいつもビリだった。そんでゴザに戻ると同級生は「よく頑張ったわね」なんて頭をナゼナゼされてやがる。その片隅でおれは黙々と弁当を喰ったっけ。唐揚げは自家製のタレに漬けたものだったが、同級生の唐揚げは見た目がカラッとしていた。切り取ったばかりの崖みたいに新鮮だった。おれはそいつに唐揚げ一個を取り替えるようにせがんだ。その唐揚げを喰ってみると、うまかった。今まで喰ったことのない味だった。それは日清唐揚げ粉の味だった。
 閉会式の花火が鳴り響くと同時に、オートバイの爆音が聞こえた。閉会の言葉は爆音で掻き消され、父母たちが一斉に振り返る。金髪で眉毛がないけれど人のいいYちゃんがフェンスの向こうから手招きしている。おれは弁当箱を持って立ち上がり、申し訳なさそうにフェンスを越えた。Yちゃんに弁当を手渡して、兄のオートバイの後ろに乗って抱きついた。閉会式の言葉も、問いかけてきた兄の言葉も、爆音と風に掻き消されてしまった。もっと速く! と、おれは兄を強く抱きしめた。早くここから逃げ出したかった。あまりの速さに必死でしがみつきながらも、ゲップが出た。生姜の絞り汁のにおいがした。