凡人にはわかりません

 
 ロバート・K・ですこです。
 
 香川県坂出市で起きた三人行方不明事件のニュースを見ているうち、どんどんと引き込まれてしまい、昨夜は五時間くらいパソコンの前に張り付いて2ちゃんをチェックしていた。
 新たな情報も進展もないまま、もの凄い速度で進んでいく掲示板の書き込みによって、当初は父親犯行説が有力だったのに、いつしか流れは外部犯行説に傾いていった。これらの書き込みの大半は個人の憶測で、いつしかそれが本流になり始める、という集団心理の変容をリアルタイムで感じられたところが非常に興味深かった――「ぜってー親父だってば……いや、まてよ?」
 こうした懐疑は、これから始まる裁判員制度によって起こるかもしれない冤罪回避に役立つだろうし、自分の頭で考えて自分の言葉で発言することは、差別や偏見をなくすためにも重要なことなのだ。今風に言えば『ブレインストーミング』だろうか。
 
 ですから今日は推理ごっこをします。事件の概要については既知だと思われるので省きます。
 
・犯行の動機は?
 定番は親族による保険金目当ての殺人だが、姉妹は幼く保険金を掛けるとは考えにくいし、掛けていたとすれば、事件からすでに五日経過しているので逮捕・任意同行されているはず。祖母が目当てならば、わざわざ孫といる場所を狙って犯行にはおよばないだろう。
 
・普段よく吠えていた犬が、犯行時刻には吠えていないのは、身内の犯行だからではないか?
 あらかじめ餌を用意しておけば回避できる。また、親族だとしても顔馴染みならば隣家の人間とは限らない。あるいは頻繁に訪れる親族以外の人間でも吠えないだろう。
  
・盗まれた物や、室内に物色された形跡が確認されていないが?
 金品目当てでないことは確かだが、それはその場での話であって、最終的にはカネ目的かもしれない。ゆえに怨恨だとも言い切れない。
 
・ベッド脇のカーペットはL字形に切り取られ、 その下の畳には染み込んだ大量の血痕があったことが既に判明している。また、風呂場の血痕は 浴槽の外で見つかり、洗い流したような跡だった。
 カーペットに足跡が付いてその部分を切り取ったのならば、犯人は土足で上がり込んだだろう。そうなると強引な押し入りになるので、誰かが叫ぶはず。素早く、あるいは複数で一気に襲ったかもしれない。もしくは、あらかじめ睡眠薬を……。子供をくるんで運ぶためにカーペットを切り抜いたとは考えにくい。布団で充分だし、綿で消音効果も得られる。カーペットの下に大量の血痕があるのならば、傷つけたあとに数分は経っている。風呂場の血痕は、被害者の傷と返り血を洗い流したものだろう。DNA鑑定で三人以外の血痕があったのなら、当然そいつが犯人。
 
・3人が一緒に寝ていたとみられるベッドは、ベッドメーキングされた後のようにきれいに整えられ、掛け布団に少量の血痕があったが偽装工作か?
 少量の血痕ならば就寝前に襲ったと考えられるが、現場には大量の血痕が残っており偽装工作の線は空振りする。
 
・玄関に血を踏んだような靴跡が残っていたことが判明。屋外には同様の靴跡がなかった ことから、犯人が痕跡を残さないために別の靴を履いて外に出たとみている。
 玄関と野外の足跡が違うのならば、複数だろう。単独犯が、履き替える靴を用意しつつ一人で三人を運ぶとは考えにくい。問題は、玄関の足跡とは違う足跡がいくつあったか、だ。
 
・じゃあ隣家の靴も捜索しないと!
 被害者の親族なので、任意の捜査協力を頼むしかない。
 
・じゃあ協力するでしょう、普通!
 してる、と思う。
 
・祖母の携帯電話の電波が複数の基地局を移動しているが?
 これは性質上ごく普通の挙動で、電波は混線を避けるために近隣の基地局を探すらしい。よって電話そのものが移動したという証拠にはならない。
 
 
 こうして考えていくと、犯人が身近な人物、あるいは共犯者と考えるのが普通だろう。すでに終えていてそれが情報として流れていないだけなのかもしれないが、やはり親族の捜査協力は必須で、それがこの事件を不可解なものにしているだけに、様々な憶測が飛び交うわけだ。
 強面の容姿や振る舞いによって犯人とされた人物が、いつしか擁護されてゆく過程で、一体なにが起こったのだろうか?
 ぼくはむしろそっちに興味がある。
 
 そうそう、同姓同名の父親は『画伯』と呼ばれているけど、画家の山下清の本名は『大橋清治』だからね。あと、山下さんは、ヘビが、嫌い、なんだな。
『裸の大将』によって山下さんは知的障害者と思われてるけど、深沢七郎との対談を読むと、山下さんはめちゃくちゃに頭がいいことがわかる。よく「どもるのは頭の回転が早すぎるからだ」と言われるけど、まさにその通りで、常に会話の三歩先を行ってる。やっぱり、サヴァン症候群だったんだろうね。