気になるささくれ

 
 今日も日記が長い、ですこです。もはや日記じゃないんだけど、今日のはかなり日記然としていて、一日って結構長いんだなと改めて思いました。
 
 昨日も今日も仕事で、ワーキングプア丸出しなんですが、帰宅途中の信号待ちで、車の屋根になにかが当たった音がして、屋根といってもぼくの車はハードトップではなく幌なので、たとえば落雪などが幌に当たると結構大きな音がするんですが、こぶし大くらいの雪玉が当たったようなそんな音でした。なんだなんだ何が落ちたのかと後部を振り返ってもスクリーンには何もなくて、代わりにカラスの怒号がガァーガァーと聞こえたので、嗚呼、近くに子供でもいてそれを守るためにヒステリーをおこしてぼくの車に体当たりしたんだなと思った。
 
 今日は吹雪いていたので、一応ぼくのタイヤはオールシーズン用なんだけど、さすがにそろそろタイヤ交換をしなければならないと思い、ガレージに行って車を左ギリギリまで寄せてまずは右前後のタイヤから、とガレージの奥に眠っているスタッドレスタイヤを引っ張りだし、さあジャッキを咬まそうと車の後部にしゃがもうとしたとき、すでに悲劇は起きていた。
 幌の後部に、生卵がベットリと垂れていたのである。
 なるほど、すぐに理解した。カラスがくわえて運ぼうとした生卵が、あろうことかぼくの車に落ちたんである。「ガーッ」という怒号は親子愛ではなく、御馳走を床に落としてしまったときに発せられる食欲由来の叫びだったんである。そういえば振り向いたとき、後続車の男女が笑いを堪えてるような顔をしていた。
 御丁寧に殻付きで、おまけに腐敗臭のオプション付きである。吐き気を堪えて雑巾で拭き上げる。あのね、まじでエアガン買おうかな。今回ばかりは頭にきた。エアガンを買って、憎き生卵を予め割るんだよぉ(そっちを撃つのかよ)。
 というか、生ゴミ捨てる日を守れよ。もっと厭なのは、おいカラスたちよ、鳥類の卵を喰うな。共食いはやめようぜ。見ていて切なくなるよ。魚卵を食え。
 そういえば幼き日、よく川釣りに行っていたんだけど、餌はとうもろこしの粒で、それでも結構釣れましたね。魚がコーンって。あの魚、絶対バカです。消化不良を起こすに決まってるし、そもそも水中にとうもろこしなんか無いし。
 
 サクッとタイヤ交換を終わらせて、冷えた体を暖めようと部屋に戻り、ストーブのスイッチを押しても反応がない。どんなテクを駆使してもうんともすんとも言わない。無論、すんなどと言ったのなら即座にハンマーで破壊しますけど。
 時間もないのでお見舞いへ向かう。うーん、車内の方が暖かい。退院の日が伸びた母は、落胆していた。落とした視線の先にぼくのボロッカスのジーンズが写って、「あんた、乞食みたいだね」と。「これ結構高いんだぜ? 八万円也! 新品はな!」というと、「乞食のくせに生意気な」だって。おいおい、なんだこいつ。
 
 以前、NHK脳梗塞の特集をやっていて、いわゆる再生医療に焦点を当てた内容で、発症後の早い段階に自身の髄液を培養して注入すれば脳の血管が再生されて、機能していなかった部位が蘇るという、劇的な番組だった。
 しかもその病院は札幌医科大学付属病院で、母が勤めていた病院だった。だからぼくは「知らない病院じゃないんだし、なんとかやってみよう」と説得すると、母の眼に光りが帯びてきた。
 それから一週間後の今日、母に「髄液やってみよう。やっちゃおう!」と言うと、「あれ、だめみたい」とつぶやいた。
 お見舞いに訪れる人の中ではかつての同僚も多く、その中で件の再生医療に詳しい人が訪れてきて、母もその話をしたようだ。その人は事務系なので現場にはいないが、様々な情報が交錯する場所にいるので、事情通なのだ。
 その人曰く――
 
NHKの放送以降、全国からおびただしい数の治療依頼の電話がかかってくる
・番組に出演した人は、テレビで放送されることに合意を示しており、だからと言って治療費はタダではない
・他にも同様の治療を行ったが、いちばん効果の現れた人を放送で特集している
・現段階では、効果の現れる確率は百人に二人。つまり2%
・髄液の採取には高リスクが伴うので、医療レベルではかなり未熟の部類

 
 以上、レアなオフレコ情報。
 確かにあの番組は誇張された感はあるけれど、再生医療が広く世に示されたという意味では劇的な効果を生み出しているので、これから切磋琢磨をして、いずれは誰もが治療を受けられる時代になるでしょう。まだまだ終わっちゃいない。いまから始まるんだ。なにかをできなくなって悲しいのはわかるけど、じゃあできることをやろうじゃないか。from ボブ・ディラン
 


 
 最近、車の中でREEFを聴いている。九十年代に人気があったイギリスのバンドで、ハードだけど、どこか懐かしい感じがいい。これは体験した後の懐古ではなく、イギリスロックの系譜というべきもので、たとえばHumble Pieのような、まだハードロックという言葉がなかった時代のハードさを継承しているように思う。
 以下は彼らの代表曲で、知っている人もいるだろう。
 
 REEF / Place your hands

 テンション上がるわー!
 
 で、アルバムを聴いてると、なんか変な曲にブチ当たった。以前からある種の違和感を覚えていた曲だったが、いよいよ「これは名曲じゃないか」と思った。しかしそれは、どこかで聴いた覚えのある曲で、調べてみるとやはりカバー曲だった。
 Kenny Rogersというアメリカのカントリー歌手の曲で、結構有名らしい。YouTubeで見つけたので張っておく。
 
 Kenny Rogers & The First Edition - Condition

 
 これがとても気になったので、コード進行を採譜してみる。
 Dm-G-Dm-G
 これがAメロで、Bメロに行く際に
 Dm-A7
 という常套句に行き、
 Dm-F-A#7-Dm-A7-Dm
 で終わるという、とてもコンパクトな曲なんだけど(二番目以降は不必要に転調する)、これがじつに素晴らしくて、なんともいえない哀愁がある。これを、アップテンポにしてパンキッシュに演奏すれば、ポーグスですね。カントリーミュージックアイルランド民謡の類似性が垣間見えるわけです。
 キーはDmなんだけど、この曲の肝はFとA#7で、この“フック”がなければこの曲はゴミに等しいし、このフックがあるがために“唄い始めからいい”。
 小杉武久は「作曲とは文字通り、曲がりを作ることだ」と言ったけど、ぼくはとても共感する。そのフックが、聴く者のハートに引っかかるのだ。このタイプの曲は、ウィルコやジャック・ジョンソンが得意だね。
 そんなわけで、楽器を持ってる人はYouTubeとコード進行を見ながら演奏してみて下さい。ほんの数十秒ですけど、あなたがグッとしてくれれば、ぼくもなんだか嬉しい。