髪の毛混じりの味噌日記

 
 昼頃、カミナリの音で目が覚める(働けや)。
 トースト、ハムエッグ、サラダ(トマト&サラダ菜)、グレープフルーツジュース
 散髪するべく、十年来通っている床屋へ電話すると「お客様の御都合により〜」とのアナウンス。数分後、もう一度かけてみてもやはり同じ……潰れたか。
 これは困った。ぼくは基本的に床屋が嫌いなんである。これから新しい床屋を探さなければならいと思うと、かなり気が重い。
 このお店に出会うまで様々な床屋に行ったが、そのすべてが拷問だった。
 昔ながらの白衣に白マスクの格好をした店や、流れ作業のように進んでいくチープなお店、やたら偉そうにカリスマぶっているオネェ言葉の店etc.
 幼い頃は母の知り合いに出張散髪をお願いしていたし、その後は兄の同級生の店で散髪していた。確か中学生くらいから知らない床屋に行くようになったんだけど、憂鬱だった。もっとも強制的にバリカンで刈られたりもしたんだが。
 初対面にもかかわらず、こっちはてるてる坊主みたいに無防備な状態で、近い位置からあれこれと話しかけられるのは非常に困る。
 以前行った店での出来事で、顔剃りの前は蒸しタオルで顔全体を蒸らすんだけど、その隙にいきなり太腿をマッサージしてきやがってね。ただでさえマッサージが苦手なのに、目隠しをされた上に突然きやがったから「やめろコノヤロウゥ!」と怒鳴っちゃった。
 そしたらその若い店員が「えー? 気持ちいじゃないッスかぁー」とヘラヘラしてやがるので閉口した。
 客が欲しいのかもしれないけど、余計なサービスはいらん。ぼくは髪を切りに来ているんだよ。それも嫌々だ! ましてや男のマッサージなんぞ言語道断! どうせなら中国みたいに性的なサービスをお願いしたいっ! 目隠しフェラチオ万歳! 剃毛万歳!
 あとは、ぼくの髪質って特殊なんだ。クセ毛で異常に細いから、普通に刈られると笑っちゃうくらいツンツルテンになっちゃう。だから刈ってから2週間くらい経たないと、まともにならない。ぼくが帽子に凝る理由はそこなんです。帽子は好きだけど、根元的な理由は消極的なものなんです。
 そういったことを経て、十数年前にこの床屋と出会ったんだけど、完璧だった。ぼくの髪質をよく理解してくれたし、店主の音楽的センスも合った。音楽センスが合うってことは、美意識も合うってこと。
 思うに、ぼくみたいに床屋が嫌いな人って結構多いんじゃないかな?
 考えてみれば当然で、爪みたいに自分じゃ切れないし。いくら指示を出したところで、伝わらない人には悲しいくらい伝わらないし。故にコミュニケーションを良しとしている風潮があるんだろうけど、伝わってない奴に話しかけられることほど腹の立つことはないわけで。
 気に入っている床屋がある人は幸せ者だ――と書いて再度電話してみたら繋がったぜ……助かった!
「昨日繋がらなかったッスよー?」とは言うまい。ぼくだけの秘密にしておこう。
 
 秋刀魚が旨そうなので、久し振りに本格的な自炊を決め込む。
 スーパーに出向いて、秋刀魚四尾、三本で85円だった長葱と、これまた85円だった小松菜も。長葱を使い切るべく回鍋肉にしようと、キャベツとピーマン豚バラ(焼き肉用)。味噌汁用に油揚げ、葱のために挽き割り納豆――幼い頃、挽き割り納豆を食べさせてもらえなかった。手巻き寿司の時は食べたが、それ以外は母が頑なに拒んでいた。あとで知ったことだが、挽き割り納豆は祖母の好物だったので、当時祖母を嫌っていた母は、それらを丸ごと否定していたんだ。
 そんなトラウマもあって、ぼくは挽き割り納豆が大好きになってしまった。それに、挽き割りの方が香ばしくて美味しいような気がする。
 鍋に鰹節を大量投入して、味噌を溶こうと戸棚を開けたら、しばらく使っていなかったせいで白味噌赤味噌になっていて驚いた。
 ちなみに味噌は〈かねさ〉の〈ね太郎〉。これもトラウマである。
 かつて自炊を張り切っていた頃に様々な味噌を試したが、〈ね太郎〉がいちばん好みだった。味噌は、変えちゃいけない。味噌は恋人である。
 
 久し振りの買い出しで袋は二つになって、ズシリと思い。
「これらのほとんどがぼくの胃袋に収まるのか」と思うと空恐ろしくなった。
 この『食』の営みを考えたとき、驚くべきデータを知った。
 人間ひとりが70年間生きた場合、生涯で500トン以上の大便をひねり出す(その言い方やめろ)。
 その量に世界人口67億を掛けてみると――もう計算できない。「もしかしたら、地球ってうんこで出来てるんじゃねえの?」ってなもんや三度笠です。
 自称エコロジスト諸君、まずはうんこを我慢しなさいよ。