人間日記

 
 期日に図書館へ本を返しに行くと、白髪の職員が中指で黒縁眼鏡を持ち上げて「一冊足りませんぜ?」と言うので、どうせ誰も借りねえんだから明日でもいいでしょーと思いつつも、再度出向いて返すあたりが偉い。
 ちょっと発見したんだけど、ヤバい内容の本は地下室に隠されているのかもしれない。事実そうだったし、一般とは別のパソコンでチェックしていたので、借りた人間の個人情報を取得しているのかもしれない――と邪推してみる。
 クロード・ギュスタヴ・レヴィ=ストロースを借りてみる。なんか、出逢った感がある。相当に有名な人らしいが、やっと読んだ。これはマズローなみに面白かった。
 そしてやっぱり、答えなんかねえなと思ったわけです。世界は仮説で成り立っていて、その仮説が面白いということで、じつは内容そのものよりも、その仮説を立てるまでに至った時間や労力と、ねじ伏せてしまう腕力みたいなものが読み手に説得力を与えるんじゃないかと。そこには人と金が集まるぞと。とはいえ、「世界はイリュージョンぢゃい!」と丸投げすることも、それはそれでアリだと思う。
 いちばん疑問なのは、レヴィとストロースの間になぜ「=」があるのかということ。お前くらいだろ。
 
 昨日貼った架空請求業者対決の関連動画で、面白い物を見つけた。

 14分と長いんだけど、長いから面白い。
〈山田ボイス〉というのは、実際に応対した業者の声をうp主が録音したもので、その声をフレーズごとに切ったもの。それを、おそらくはサンプラー的なものにそれぞれ配置したと思われる。つまり、たとえば「1」のボタンを押したら「んだよコノヤロウ!」という声が出て、「2」を押すと「電話番号教えて?」という仕組みで、たぶん総数は30フレーズもないはず。それらを、相手が発する言葉に合わせてボタンを押している。たったの30フレーズしかないんだから、端から見ればバレそうなもんだけど、これが最後までバレていない。その理由はいくつかあると思う。
 山田の声質や滑舌が抜群に良くて、特に怒鳴り声はかなりイイ感じあることと、もちろんうp主の操作も巧い。
 けれど、ぼくが注目したのは「そこそこの怒号と紋切り型のフレーズで14分も保つこと」に対する疑問だった。
 何度も同じことを言っているのにもかかわらず、業者が機械だと気づかないのは、山田ボイスが纏っている「音声のヴァイタリティ」によるものだと思う。
 業者が徐々に気圧されていくのは「こいつ、いつまでこのテンションが続くんだ?」という原始的な空恐ろしさのためで、それが機械的な操作によるものであることを、それが機械であるがゆえに、なおさら恐怖感を覚えるところが面白い。
 気性の荒い猫に鏡を突きつけるような面白さもあるし、たしかに言葉は言語なんだけれど、その音色というか、怒鳴り声の効果に注目したい。
 まだ文字が存在しなかった原始時代では、音が重要だったと思われる。なぜなら、人間を襲う猛獣たちは夜行性であり、暗闇の中で危険を察知するためには耳が頼りだったから。音楽でいえば、たぶん恐怖を煽ることから始まっていて、それを和らげるために、さらには陶酔させるために生まれたものかもしれない。
「じゃあ耳の聞こえない人は?」と考えると、ぼくには心当たりがあって、先輩の父上は耳が聞こえない人で、その人を紹介されたときに、ぼくは不用意に肩を触ってしまって、父上の体をビクンと硬直させてしまったことを、ひどく後悔している。その行為は、耳元で叫んでしまったことと等しいはず。
 何が言いたかったのかというと、よくわかりません。
 
 元気が出てきたので、押し入れからホットカーペットを引っ張り出していると、古いアルバムを見つけた(陳腐な歌詞みたいだね)。
 自分の古い写真はほとんど持っていなくて、なぜかというと母が切り刻んでいて、でもそれはオムニバスを作るためにハンナ・ヘーヒよろしくコラージュをしていたので、「デジタル時代はすぐそこだからやめろ!」と、辛うじて保護した一枚を350dpiでスキャンしておく。
 

 
 昭和の彩度……貧民窟じゃねえよ! 赤ちゃん、誰かしら。想い出せない。
 自分が可愛いです。たまりません。
 ちなみに、いまはもっと可愛いです☆