さらば、罪悪感

 
 冷凍庫で眠っていた鶏肉と、冷蔵庫で死にそうになっていた牛蒡と人参を使って炊き込みごはん。
 おかずは、これまた死にそうなひじき煮を、卵で巻いて焼く。
 味噌汁は、豆腐のときにしか出汁は取らない。わかめと葱は入れておきたい。
 あとは、しおれた青菜群と、一株50円だったブロッコリーのサラダ。
 こうして週末までに食材をやっつけておけば、罪悪感もなく遊べる。
 
 市橋が捕まる前に書いておきたかったのだが、直前に拘束されてしまったので仕方がない。
 長身且つ先天的に持っていた運動能力、肉体労働で鍛え上げられた体力、更に指名手配中でも折れない心を保つ精神力――これらを考慮すると、彼は自転車で逃亡するべきだった。
 サイクルキャップと偏光レンズ等、本格的なロードレーサーの格好をすれば、彼の佇まいを疑う者は少なかったと思われる。Nシステムは回避できるし、フェリーにだって堂々と乗れただろう。
 
 社会という巨大なフィールドを敵に回し、たった独りで駆け抜けた彼は、魅力的だ。
 そのポテンシャルの前では、法は無力だ。
 悪は強くなければならないし、孤独でなければならない。
 ぼくはそういう人間に強く惹かれてしまう。