呑んで飲まれて

 
 自転車のスポークにテニスボールを挟んでいるですこです。
 昨夜はヒロ吉っつぁんと久し振りに呑みに出かけました。当初は僕が出向いてC級ファッキンチープ焼き肉屋「昌苑」へ行って紫色の牛タンなぞを自虐的に食べる予定でしたが、ヒロ吉っつぁんの方がこちらに来ると云うので、じゃあ昌苑なんかやめて「世界の山ちゃん」へ行こう! と私のハートは小躍りしました。そうです、名古屋名物幻の手羽先が札幌でも食べられるんです! やったー!
 19時待ち合わせ。僕ぁ早く食べたくてウズウズしていたんですが、ヒロ吉っつぁんは「携帯を即席充電するヤツを買いたい」だの「お金を下ろしたい」だのと私をじらし、いぢめます。そうこうしているうちに山ちゃんの看板が見えました。私は心の中でオオッと叫びます。中を覗けば案の定、激混み。祝日といえど19時辺りは一番脂っこい時間帯、ましてや幻の手羽先ですからそうそう簡単に喰えるはずがありませんし、また、簡単に食べられない方がむしろ食べ甲斐があるというものです(一体いつになったら喰えるんだよ)。
 仕方ないのでよく行く焼鳥屋へ。思い返せばつくねを頼むのを忘れていた事が悔やまれる。つくねタレには卵の黄身が付いてきてそれが結構旨いんですってば。なんでもヒロ吉っつぁんはこれから会社へ行って仕事をしなければならないとかで、あまり時間がないので二人とも妙なハイペースで呑み続ける。店を出たのは22時くらいだろうか、ヒロ吉っつぁんはすっかりエエ顔になっていて「果たしてこの状態で仕事になるかしら?」とこっちが心配になる程でした。短い時間だったので不完全燃焼の感のまま惜しみつつ別れを告げます。
 徒歩で家路へと向かっていると尿意をもよおしましたので、そういえばあの雑居ビルにはトイレがあるではないか、と小便をしていると、そういえばこのビルにはバーがあるではないか、という事で一杯ひっかけようではないか、という事に。
「ちーす!」とドアを開けるとなぜか関西人が三人。クピクピ呑みながら、頼まれてもいないのに彼らの地図にラーメンマークを印し「君たちはここのラーメンを食べるべきである」と諭す。三人組の関西人が帰ったあと、若い女性が一人来店。なぜかその女性もバリバリの京都弁。なんでやねん、ここ札幌ちゃうんかい。しばらくすると厳ついスキンヘッドやらイレズミやら「完全なる不良中年たち」が来店。聞けば内の一人は元DMBQのベーシストだというので早速、「なんで脱退したんスか?」と訊くと「だっておれにお金くれないんだもん」と意外に可愛い回答に笑ってしまう。ヘヴィサイケにもお金は必要なんですね。
 一杯ひっかけるつもりが三本呑んでしまい、気づけばもう2時である。ちなみにこの店のマスターはヒロ吉っつぁんの高校の先輩であります。札幌て、狭いんだなァ。
 テクテクと家へ向かっていると、ピンと閃きました。
 思えば今日のヒロ吉っつぁんはなにやら怪しかった。たかが焼き鳥一件なのになぜ金を下ろした? 呑んだあとに仕事ですと? はっはぁ〜ん? 見えたぞ! 見えたナリヨ! ヒロ吉っつぁんは会社へは向かっていない。途中で下車したに違いない。その駅は第2のススキノのとして名高い、北二十四条駅だろう、そして彼は一人でピンサロ的な店へ行ったに違いない。更にだ、酔いにまかせて女を二人呼んで3Pコースにしたが、片方がもの凄く太った女性で、汗だくになりながら仕事をするもんだから、嫌気が差したヒロ吉っつぁんは「もうええわい! チェーンジッ!」と叫んだに違いない、間違いない。
 つまり、彼は酒を呑みたくておれを誘ったのではなく、風俗へ行く為の景気づけとしておれを呼んだのだ! なんたる事だ! なぜおれも誘ってくれなかったんだ! まさしくイ・ケ・ズ!
 そんな邪推をしながら家へ着くが、眠気は全くない。ポケポケして時計を見るともう4時である。しかも7時には歯医者である。えらいこっちゃ。
 目覚ましを叩けば6時半、一旦起きあがるもあまりの酒臭さに歯医者はサボる事にしました。先生、ごめんなさい。大人ですから仕事にはちゃんと行きました。ずっと息を殺していたのでとても疲れました。今日は早く寝ます。