ハロー、ファンタジー

 
 誰も触ったことのない、本物かも疑わしいエントランスの大理石分をまけてくれないか、ことですこです。
 

 なんか豆腐マンションが大変みたいですけど、建設会社は空き室をぼくに安く売ってくれないかしら? 名前は、マンション『だるまおとし』に変えて下さっても結構です。マンション『バツゲーム』でもいいです。捻挫マンション『骨抜き』でもいいです。50万でどうですか。50回払い、無金利、ムキンポグラフで。
 にしても姉歯って人は潔いですね。珍しい名字だから親族は大変でしょうけど。あれだけ堂々とテレビに出て発言するってことは「おれだけが悪いんじゃない」という意思表明でして、案の定建設会社も出てきて「おれだっておれだけが悪いんじぁねぇ」とのたまい、挙げ句の果てにはお得意の「国が悪い」となりましょう。
 国家と云うのは実態のない幻想ですから、幻想に責任を押しつけるということは、「魔が差した」という最もポピュラーな言い訳を引き出すことにしかならないでしょう。
 
 そもそもマンションと云う“憧れつつもローンを組めば買えないこともない空間”自体が幻想なのかも知れません。
 ぼくは「空中に資産価値がある訳がない」と思っていますので、金持ちになっても絶対にマンションは買いません。土の上に自分だけの棲み家おっ勃てないと意味がないと思っています。
 分譲だと引っ越しも面倒ですし(環境を変えるのはとても楽しい)、36戸以上も密集した各々が息を殺した蜂の巣を、居心地が良い空間だとはとても思えません。
 一戸建てが無理ならば、やはり木造アパートが好い。薄壁や隙間風というのは何もネガテヴなだけじゃあない。
 古代から受け継がれている自然な空調、大地の息吹を精製し茶化すようなヒュゥと云う口笛、ワラジムシを招待する為の利休の茶室のような秘密の通路、皿が割れた音にコップを壁に当てた午前四時、自室の爆音音楽にノッているかと思われる隣人の叩音、上階の引っ越し音etc.
 
 ぼくらはいつから共存をやめたのだろう。
 ぼくらはいつから尊重と我が儘をやめたのだろう。
 ぼくらが、得体も知れない生活に憧れ、まだ起きてもいない悲劇の日々に怯え始めたのは、一体いつからだろう。