イタズラ日記

 
 歯茎色したジェリー・ビーンズ、ですこです。
 昨夜は、前日久しぶりにウヰスキーを呑んだ所為か、一日中頭痛に悩まされまして、嗚呼、酒ってやっぱり毒なんだなァ、と思いつつ、ギターマガジンを買いに行かねば、と思いつつも、頭が痛いのでベッドに横になると即座に爆睡してしまい、寒さで目を覚ますと深夜2時だったので、さすがに日記を書く気にはならず、メシも喰わずそのまま再度眠りに落ちたのでした。
 おかげさまで今朝の目覚めは、近年稀に見るほどのジャンピング起床でした。シャキーン! と、思いっきり寝坊をしてしまったんです。
 不思議な事に、わたしが寝坊をする時は決まってシラフの時であり、呑んだ翌日に寝坊はまずしないのです。この現象は恐らく「飲酒で遅刻はヤバイぞ」と云う緊張感からくるものと思われますので、寝坊で悩んでいる方は、前日にしこたま呑む事をお勧め致します。
 さて、酒飲みのわたしが、はたして久しぶりのウヰスキーごときであんなにも激しい頭痛に襲われるものだろうか? 安酒のトリスだからなのではないか? という事で今夜は、発泡酒で自らの頭痛の所以を検証しようと、生絞搾りを呑んどります。うーん、やはりビールが一番美味しいですねー。
 
 近年多発している事件の影響か、市立を含む学童のスクールバス送迎化の日も近いようです。過保護と見るべきか、当然と見るべきか。
 わたしは保育園には一人で通っていました。朝、出勤する母親と共に家を出て、別れの交差点で投げキッスをしていたそうです。帰りは兄が迎えに来てくれて、冬などはソリで運んでくれるのが無常の喜びでありました。夕方になると、兄弟揃って鼻水を垂らしながら母の職場へ迎えに行き、「おなかすいたー」などとグチりながら、夕焼けの路地をソリで引かれてゆく光景は、いまでも鮮明に憶えております。
 そんな平和な時代でしたが、ヘンなおじさんはやはり居ました。わたしが最も印象に残っているのは、電話によるイタズラです。ほとんどの日の昼間は、家に居るのはわたしだけだったので、電話に出るのは当然わたしです。
 電話の相手は、おもむろにこう切り出しました。
「おちんちん出してごらん」
 わたしはうろたえて、声が出ませんでした。
「ここからは君が見えるんだよ」
 わたしは戦慄しました。漫画で見たスナイパーを連想したのです。
「恥ずかしいならカーテンを閉めなさい」
 (カーテンが開いていることまで知ってる!)
「ほら早く!」
 相手は語気を強めました。わたしは「イヤだ!」と言いました。
 すると相手は
「出さないとお母さんをいじめちゃうよ?」
 わたしはこの一言で撃沈し、カーテンを閉めてズボンを下ろし、つぼみを露にしたのです。
「出したかい?」
「うん」
 そう答えると、相手は電話を切りました。心臓はドキドキしています。わたしは本気で母を心配していました。
 
 いつもよりも早く職場に出向き、勝手に忍び込んで守衛に苗字を告げると、母が出てきました。わたしの顔が正気ではない事に母は驚いて「どうしたの!?」と訊きましたが、わたしは「なんでもない」と平静を装いました。
 電話の事を告げてしまうと母に危害が及ぶ、と本気で思っていたのです。数時間、わたしは目を光らせて通用口から母が出てくるのを待っていました。怪しいヤツは居ないか、などと真剣そのものでした。
 このことは誰にも話していない。話してしまうと本気でアブナイと思っていたんです。
 当時、夕方のサスペンス系のドラマでは、蟹江敬三が悪役として暗躍していた時でした。わたしは蟹江敬三がとても恐ろしくて、電話の主にもそっくり当てはめていたのであります。未だにわたしは、蟹江敬三があまり好きではない。
 
 いま思えば、受話器片手にカーテンを閉めてちんちんを出しているおれは、アホそのもである。いや、見方によればテレフォンセックスか。
 こんなおれでも昔は純真だったんである。子供を騙すのは、よくないのである。