肉日記

 
 プニプニ御膳、ですこです。全部ゼリー。
 
 手羽ぎょうざを食べて思う──なんて残酷な料理なんだろう、と。
 鈍器で叩いて気絶した鶏の首をチョンパし、熱湯に浸し、羽を毟り、解体し、分別し、そこに餃子のタネをブチ込み、カリッと焼いて、舌なめずりをするんである。
 思うに、創作料理とは、残酷な空想の実現である。
 いったい誰が初めに手羽ぎょうざを考案したのでしょうか。骨抜いてそこにミンチ投入ですよ。しかもタネは豚肉ですよ。非人道極まりない行為です。でも、美味しい。ハンバーグ然り、無残な料理ほどオイシイのもまた事実であります。
 
 そもそも、人類で一番最初に“動物”を食べた人間は、いったいどういう気持ちで食したのでしょうか──
 
「あー腹へったー」
「いい加減タロ芋も飽きたねー」
「だよなー」
「菜っ葉も木の実もウンザリだよ」
「だよネー」
「ちょっと! アレ見て」
「なによ?」
「ホラ、蛇だよ」
「あーホントだー」
「あれ…どうかな?」
「どうかな、って?」
「食べられるかな?」
「喰えないことはないだろうけど…」
「…ゴク」
「おい! あんなモン喰う気かよ?」
「コ…ゴクリ」
「頷きながら生唾呑んだな?」
「く、喰いてぇ…」
「マジかよ! ヤベェって、毒あるしよ」
「体内に毒があるのなら、ヘビ自身も生きていないはず。隔離されているだろう毒の袋を除ければ、喰えるはず」
「お前、滑舌もあたまもいいな」
「ジュル」
 
 かくして、彼らはヘビを捕まえて殺した。
 
「で、どうやって食べんだよ」
「まずは、生で」
「おれはお断りだ」
「じゃあ見てなよ」
 
 男はおもむろにヘビの頭にかぶりついた。
 
「苦っ!」
「ホラ、言わんこっちゃない」
「じゃあ、皮を剥いてみる」
「もうやめようゼ」
「いや、やる」
 
 竹の皮を剥く要領で、ヘビの肉はいとも簡単に露になった。
 
「ちょっとグロテスクだな」
「そお? 旨そうだよ」
「…お前、ちょっとオカシイぞ?」
「じゃあ黙って見てなよ」
 
 男はヘビの刺身に喰いついた。
 
「ど、どうよ?」
「うん。儀式の生き血と同じ味がする」
「じゃあ、美味くはないんだな?」
「不味くもないよ」
「…もうやめようぜ」
「いや、やめない。次は焼いてみる」
 
 男たちはチリチリと火をおこします。
 
「なんか、素敵な匂いがするね」
「確かに」
「ホラ、身の色が変わってきたよ」
「おぉ! スゲー!」
「めちゃくちゃ旨そうじゃない?」
「う、うん!」
「もう焼けたよ。君から食べなよ」
「いいよー! だっておれ、今まで傍観してたんだからさ」
「いいって。食べなよ」
「マジに? いいの?」
「もちろん!」
 
 焼いたヘビを頬張った男は、満面の笑みをこぼした。
 
「旨っ! お前も喰えよー」
「いや、おれはいいわ」
 男は急に冷たい口調で言った。
 
「なんか、体が痺れてきた」
「だろうね」
「…だろうねって、お前…まさか」
「うん。まさかだよ」
「て…てめぇ」
「そういう時は“貴様”と呼んで欲しいね? 敬語だしさ! ハハハ!」
「グ…グフゥ」
 
 男は、死体に噛み付いて頬を拭って怪しく笑った。
 
「人間って、剥く必要がないんだなぁ」