不況和音

 
 右手の爪が波打ってるですこです。
 なにか栄養が足りていないか、もしくはローションでふやけているのでしょう。

 
 土曜は、二ヶ月ぶりにバンドメンバー全員が我が家に集合。
 Sは市外に住んでいるので連休を取って来札、Mは失業保険受給中、おれも珍しく土日連休だったので、17時という中学生なみの早い時間から呑み始める。
 ピザハットでハーフ&ハーフと山盛りポテトを、ビールは昨夜に350mlを1ケース買って独りで10本呑んでしまったので(おまえ…)、残り14本プラスMが持参してきた12本、合計26本。一人あたま約8本、足りないナ…。
 Mは極貧なので手ぶらである。しかし、お土産にTeenage Fanclubのライヴ映像(ワオ!)をDVDに焼いて持ってきてくれたのでよしとする。
 Sは田舎在住のため、この二ヶ月はひたすら職場と家の往復だったのでストレスが溜まっていたのだろう。「プッハー!」と何度も言いながら異様な早さで缶を空けていく。
 ピザが冷めた頃、Mが
「あのう…ぼくも一つ頂いていいですか?」と言った。
 おれとSは、Mがピザを食べないのは家で食事を済ませてきたからだと思いこんでいたので、
「どどどどうぞ! 一つと言わず三切れ食べてください!」と大きな敬語で返した。
 Mは、おれとSよりも二歳年長なのである
 
 ちなみにMは、ヒロ吉とgoodridgeが通っていた高校の先輩である。偏差値はなかなかに高い。彼らはじつは頭が良いのである。
 おれもその高校に行きたかったが、おれの学力だと絶対に無理だった。
 
 グイグイ呑む。
 バンドの曲は現在、各々が創った計3曲がある。全てスローでメロウな曲だ。作りかけを含めると結構な曲数はあるが、まずは一曲を完成させよう、という事で満場一致。
 曲自体はなかなか良いので、あとはアレンジやコーラスやサウンドの質感が重要だ。
 曲を創る際にビートルズを参考にする人は世の中に沢山いるが、ビートルズの一番の肝はそのコーラスワークだと思われる。
 もう一つは、一番と二番を微妙に変えることだと、おれは思っている。その微妙な変化に愛情を感じるんである。
 
 おれが創った曲は、キーはGで、AメロはC△7→B7→Em→A#dim→Am7→D(D7)と行って、またC△7に戻る。
 この曲のAメロの肝はC#dimで、おれはそこが気に入っている。べつにA7でもよいのだが、ルートを半音上げると呼び名はA#dimとなり、それがイイ味を醸し出す。
 この進行とメロディの場合、A7からAm7いくよりも(A7の代用としてのF#mはこの場合は合わない)、A#dimからの方が絶対によい。類似でCという選択肢もあるが、CはAメロ一発目のキラーコードとして大切に扱いたい。サビを含め、CはAメロ以外では決して使わない。この曲でのC△7は、重要なテーマといってもよい。
 たった一つの半音だが、それは非常に重要な音で、この半音がある事によって曲の全体をイメージさせるチカラだってある。

 
 △7もdimも、ポップミュージックでは多用されるが、じつは不協和音であるらしい。
 おれは、不協和音と珍味は似ていると思う。最初は臭くて食べられないが、一度味をしめてしまうと、もう一度食べたくて仕方がなくなる。
 一度ブラジル音楽に傾倒してしまうと抜け出せないという魔力は、不協和音の魔力そのものだと思われる。
 不協和音から普通の和音に戻ったとき、人はカタルシスを得るのではないか。
 まるでSMプレイのようだ。
 
 そうしてグイグイ呑んでいると、24時になった。
M「そろそろおいとまします」
おれ「Sと同じ方向なんだから、一緒にタクシーで帰るといいです」
M「いや…金が」
S「二人で二千円以内ですよ」
M「いや、今日は帰ります」
おれ「地下鉄代しか持ってないの?」
M「いや、嫁から定期を借りてきている」
おれ&S「ワハハハ!」
M「じゃ…また」
おれ「終電に間に合わなかったら電話下さい」
 
 普段のSなら「いいよー、タクシー代はおれが出すからまだ居なよー」と言っているはずだが、Sはとことん呑みたかったのだろう。
 Mは失業中ゆえ、酔っぱらって午前様だと嫁に殺されかねないのだろう。
 
 午前二時前、ビールが切れる。
「ハラ減ったなァ…」
「すぐそこにラーメン屋があるぜ」
「美味しいの?」
「有名な店だ」
「喰いたい!」
「じゃあ行こう」
 
 午前二時の大行列。
「……(やっぱりナ)」
「…マジかよ」
「どうする?」
「うん。今日は諦める」
 
 コンビニでサンドイッチとビール6缶を買い、部屋へ戻る。
「プシュ!」
「プシュ!」
「パンとビールは合わないな」
「そう? おれサンドイッチ大好き!」
「サンドイッチは鉄火巻きだよ」
「なんだよそれ」
「博打しながら片手で喰える」
「おれはギャンブルはしないよ」
「でも片手で携帯いじってるぜ」
「なるほど」
 おそらくSは嫁に「今夜は泊まります」とメールを打っていたのだろう。
 
 翌日、昼に起きる。
「ラーメン、食べたい」
「寝起きでかよ!」
「地方には旨いラーメン屋がないんだよ」
「じゃあ、昨夜の店に行ってみる?」
「行く」
 
 11時間後の同じ店に、同じ数の行列。
「……(やっぱりナ)」
「…マジかよ!」
「ちょっと離れるけど、旨い店あるよ」
「行きたい!」
「じゃあ行こう」
 
 その店は空いていた。だが旨いのだ。作りも非常に丁寧で、余計な能書きは一切無い。『いまが食べ時』の店だ。口コミが広まって売り上げを伸ばし、チェーン展開する前の、一番よい時期のラーメン屋である。
「どうだった? 旨かった?」
「旨かったー!」
 
 そのまま車で彼を実家に送る。
 帰宅し、とっ散らかった部屋を片づける。シケモクはたぶん100本以上はある。部屋が異常にヤニ臭い!
 
 そういえば日曜は、ヒロ吉と『旨いジンギスカン』を喰いにいく予定だったが、二日酔いが尋常じゃないので、また今度という事にしていただきました。ごめんね、ヒロ吉よ。
 できれば、お互い翌日が休みの日に、思いっきり羽を伸ばしたいですネ! 休み当日よりも、その前日が大事じゃないですか、ねぇ?(なに開き直ってんだよ)。
 日曜日はどうも腰が重くてよぉ…そう思うだろ?
 
 そんな訳でみなさん、遊ぶために働きましょう。
 それほどカネのかからない遊びは、世の中には腐るほどあります。