キレ味もあと味も悪い人たち

 
 シーフードヌードルにマヨネーズ投入、ですこです。一回やってみて。結構うまいんですってば。薬味に胃薬を忘れずに。
 
「キレる老人」が増えている、というニュースを見た。実際、高齢者の犯罪は増えているように思うし、これから右肩上がりで増えてゆく事は間違いないだろう。
 ぼくも以前、老人にキレられた事がある。
 界隈には仲通りが沢山あり且つ人口密度も高いので、車で歩道に差し掛かる時などは非常に気を遣う。ぼくはよく歩くし最近は自転車にも乗るので、かなり気を遣っている方だろうと思う。
 それでもクソ狭い路地などでは、どうしたって歩道を塞いでしまう時がある。ほんの数秒だ。その時に丁度、出会い頭に自転車に乗った老人と鉢合わせた。すると老人は顔を真っ赤に激昂して「なぜふさぐかー!」と絶叫した。
 恐怖を感じたが、恐怖の所以は彼の怒りに対してではなく、「こんなに些細な事で、なぜこんなにも激怒できるのだろう?」という不可解な空恐ろしさだった。そう考えているとこっちも沸々と腹が立ってきた。
「しょうがないでしょ、狭いんだから!」
「なーにをいうかー!」と、もはや赤黒い。干涸らびた梅干し、の種だ。血管プッツンしてポックリ逝かれたら敵わないので、その場は逃げる事にした。
 思うに、あの赤ら顔は酒の所為だろうと思われた。
 
 
 昨日のフレッシュな話である。
 
 市内の自転車を数軒廻って、スーパーに行ったのが17時くらい。日曜の夕方、激混みである。ぼくと同じく、W杯を肴にビールを買っている客が目立つ。
 レジで並んでいると背後から「なにこのー!」とバカでかい怒号が聞こえた。
 不思議なもので、怒号の続きを期待しているのか、さっきまでの雑音は急にしんとなった。おそらくそこに居合わせた人の全ての聴覚は、マリワナを吸った時みたいに研ぎ澄まされていた事だろう。
(目は自力で閉じる事ができるが、耳は手を使わないと塞げない。しかし、研ぎ澄ます事によって対象を的確に聞き分ける事ができるのが、耳の特徴かも知れない。)
 
 なんていうのかな、ぼくはまだ振り返って見なかったんだけど、声のトーンが“注目を集めようとしている”感じだった。「ここにひどいヤツがいるぞー!」と、周りに知らしめようとしているような声だった。呂律も回っていなかったので、酔っていたのだろう。
 振り返ると、60歳くらいの客と同年代の従業員の至近距離の遣り取りだった。よく利用するスーパーなのでその従業員の事は知っていた。彼の仕事は自販機に煙草を補充する事で、空いた時間はフロアを廻っている。年齢を考慮しても店長代理的な役割だろうと思えた。
 怒号の主は、白髪混じりの茶髪で(故意の脱色ではない)、ノースリーブから見えた腕の太さと色から肉体労働に従事している人だろうと思えた。
「おまえコラー!」
「フザケンナー!」

 などと何回も叫んでいたが、従業員はなだめる様子もなく無言で毅然と拮抗していた。
 身長は同じくらい、唇と唇の距離は20cmくらい。同性の、生き別れ後の再会でもない限り、この近さは明らかに喧嘩の距離である。
 すると、無言だった従業員が「やってみろーコラー!」と叫んだ。オペラ歌手みたいな迫力があった。
 静まるスーパー。冷蔵庫は息を呑み、茄子は額の汗を拭い、カマンベールは緊張で硬化した
 殴り合いが始まるかと思いきや、さっきまでの威勢は彼にはなかった。だが皆の注目の手前だろうか、こう叫んだ。
 
「お、おれ、やらねー! やったって……負けるぅー!」
 
 ぼくは笑ってしまった。最もベタな笑い《緊張と緩和》のおでましだった。よくぞここまで引っ張ったなぁ。
 店長登場、その後は知らない。
 
 いい歳こいたジジイどもが、公衆の面前で大喧嘩。ヤバイなぁ、ニッポン!