頑固日記

 
 恋の呪文はベラマンチョ、森下ですこです。えらいこっちゃ。いいのか。横行している言葉狩りよりは100倍マシですけど。
 月曜の日記は長いです。
 
 土曜。
 帰宅後、夕方から深夜までヘッドフォンを掛けっぱなしで、ひたすらDAWで波形編集やギターやらを注入。アナログマンの悲しい性か、部屋中がシールドだらけになるので集中して一気に演らなければ、いつまで経っても普通の生活に戻れなくなる。かといって短期間で面白いモノが出来るのかといえば、ノーである。やはり、いつでも注入できる状態にセッティングしておくのがベストだが、そんなスペースはない。デジタルは鼻血モンで便利だが、カセットレコーダーのテープコンプ感が欲しい。4trのオープンリールなんかいいな。置くスペースはないけど。
 携帯がチラチラしているのに気づいたのは24時、ヒロ吉からである。また例のソープランドからだろう、得意の二輪車だろう(←嘘です)。んにゃろー、毎週呑みに行きやがってよー、ボーナス出たんだからオゴってよー、相撲茶屋のちゃんことかよー、旨いぞーちゃんこはよー。
 幸せは分かち合うものです。そうする事で減るどころか、どんどん膨らんでゆくのが、幸福とぼくの胃袋の不思議なんです。
 
 日曜。
 昼起床。ヤフオク仕入れたピッタリサイズのドレーンボルトを(ヤフオクってなんでもあるなぁ)オートバイにはめてみる。うーん、イイ感じ。
 本を片手にチャリンコのディレイラーを無造作にいぢってみる……ヤバイことになる。もう手に負えん。
 19時、友人T英から電話。Sさんと15時から呑んでるからウチに来い、と。
 ヤバイ塩梅のままチャリンコで向かう。途中、SPARでビールと鮭トバなぞを買っていく。新築高層マンション(賃貸、意外と安い)、42インチのプラズマ、ダイヤトーンのスピーカー(いかんせんアンプがショボイぜ)…etc.、くぅー、カネも無ぇクセにリッチな生活しやがってー(同棲相手の女性が結構イイトコの娘らしい)。
 久し振りに会ったSさんは、すこぶる血色が良かった。
「やあSさん、お久し振り」
「ようですこ、元気だった?」
「なんか、顔の艶が良すぎない?」
「だって毎日ハッピーだもの」
 Sさんは、この10年間の激務から解放された幸せ感で満ちあふれていた。上場後からの締め付け、店長故の朝から夜中までの勤務、片道35kmの通勤、時給換算ではパートよりも劣る超薄給。
 いまSさんは“夏休み”、女のパンツを洗濯する日々だとか。まぁ、確信的なプーである。ちなみにSさんの一家は、親兄弟が全員教師というインテリ一家である。Sさん自身も教育大に通っていたが音楽にそそのかされて中退した、という絵に描いたようなドロップアウトっぷり。どうもぼくの周りにはこういう人が多い。類は友を呼ぶ、というかぼくがこういう人を好きなだけなんだろう。
 
「ですこは野狐禅って知ってる?」とSさん。
「もちろん。好きですよ」
「えーっ! ホントー!」
「いい唄をうたいますよね、彼ら」
「おれ最近ハマっちゃってさー、昨夜もCD聴いて泣いちゃってサ…」
「ハハハ! 35歳、無職!」
「明日クラップスホールでライブなんだよ! 行かないの!?」
「ぼくは遠慮しときます。でも好きですよ」
「なんか嬉しいな、野狐禅の話ができて」
「特に好きじゃなくとも、彼らを嫌う人っていないでしょう?」
「うん、いないね、確かに」とマジ顔のSさん。
 Sさん持参のGibson ES-335を弾かせて頂く。やっぱり良いギターだよ、335ってば。素晴らし過ぎる。欲しいけど、ぼくは偏屈なのでロングテールピースでチェリーレッドの330のがいいな。カジノじゃなくてね。
 
 T英の彼女が帰宅。手料理を振る舞って下さった。他人の手料理を食べたのはすこぶる久し振りだった。唐揚げがめちゃんこ旨かった。運動会の味がした。
 続けてSさんの彼女が来訪、地元インディーズに関しては相当に詳しい、怪しい才女である。
 昔のビデオを観つつピーズやケントリマルコシアス・バンプ岡村靖幸やらの懐かしい話で盛り上がる。しゃべりまくった夜だった。
 2時帰宅、3時就寝。
 
 月曜。
 仕事を終えて帰宅後、師匠が行っているという自転車屋に行く決意を固める。近所なのだ。
“気に入らない客は追い返す”あの頑固な師匠が「あの店のオヤジは頑固だぞ」と念を押すくらいだから、相当なんだろう。ちょっと緊張。
「コンチワー」
「はい?」
 年の頃なら五十くらい、坊主頭、引き締まった細身。眉間の皺は、寄せなくともデフォルトで跡がある。
ディレイラーを看て欲しいのです」
「どうヘンなの?」
「チェーンが外れるんです」
「ふーん、どういう風に?」
「ここがこうなってこっちがこ」言い終わる間もなく、店主は引っ込んでスタンドを持ち出してきた。
「オイオイ! きったねーなー!」
「……はい?」
「油を注すのはいいけど、注しすぎだぞー」
「はぁ…」
「ちゃんと拭かなきゃよー、ダメだぞ」
「へぃ…」
「こんなの、触るのもイヤだね!」
 正直、予想以上の頑固オヤジだった。歯に衣を着せぬとはこの事だ。居合わせた中年の客は苦笑していた。
「まあいいや。調整600円、いいか?」
「お願いします」
 左手でペダルをぐるぐる回しながら、右手でシフトチェンジをしている。小気味よい。時折ドライバーでなんかいぢってる。プロっぽい。続いてフロント。
「アウト掛かんねーぞ。いぢったな?」
「へい……つい」
「フロント600円、いいか?」
「おねげーします」
 反対側にまわってくるくる回す。なんかいぢってる。ハゲのくせに、プロっぽい。
「よし、ちょっと乗ってきて」
「はい」
 一丁画を走るが、よくわからなかった。でもこう言った。
「いいんじゃないスかね?」
「うむ」
「タイヤレバーも買っていきます」
「二種類あるぞ」
「どっちがどう違うんですか?」
「マウンテンならこっちが掛かり易い」
「じゃ、それ」とほとんど言いなり。
 つーか、おれは客だぞ。なんだあの態度は! でも今どき珍しい、懐かしいぜ。よし、ここに通う事に決めた。
 独断と偏見に満ちた持論だが、第一印象は悪い方がよい。
 
 
 チャリンコ関連で、リストバンドが欲しかった。で、面白いリストバンドを買った。
 
 
 
 CBGBのリストバンド。こんなのあったんだ。驚いて速攻で買った。最高だ。
 コイツを手首にはめると、無性にコイツが聴きたくなった。
 
 Buy

 
 やっぱ最高。
 リストバンドというよりも、パワーバンドだな。