火の玉じじい

 
 寝不足ですこです。
 
(以下は、今朝の実話で御座います。100%の事実に20%の虚構を上乗せした、とご理解下さい)
 
 わたくしは、クッサイ枕にキッタナイよだれを垂らしながら、アンドロギュヌスたちとUNOをやっている夢を見ていたのです。脂汗が湧きだしてうなされるほどの素敵な夢でしたが、「パン!」という大きな音で目が覚めました。
 時計を見てみるとまだ早朝6時、ウチの前でどこかのDQNどもが爆竹を鳴らしているようでした。数分後にまた「パン!」と鳴ります。
 寝入りばなで耳を澄ましみると、爆発音の位置がランダムで異なり、爆発の前に「シューッ」と小さな音が鳴っている事に気づきました。恐らくは、ロケット花火だろうと思われました。十発目くらいになると、さすがに完全に目が覚めてしまいます。
 カーテンをそっと開けて見回してみると、ステテコ&ランニングの老人がおりました。なにやらブツブツと呟きながら、ロケット花火に点火しています――「シューッ、パン!」
 ボケ老人だな、そう思ってカーテンを閉めました――「シューッ、パン!」
 すっかり「シューッ」の後に「パン!」を待ち望んでいる体になってしまったので、眠れるはずがありません。
 すると「おい、なにやってんだ!」と怒号が聞こえました。少しワクワクしながら覗いてみると、若者二人が老人に注意を始めました。
 
「なにやってんだよ」
「…うん」
「うん、じゃねーよ。迷惑だろ」
「うん」
「人に迷惑かけて愉しいのか?」
「うん」
「誰かに当たったらどうするんだ?」
「うん」
「うんじゃねぇ! 拾え! 飛ばしたヤツ全部拾え!」
「うん!」
 年の頃なら七十くらい、意外に軽い身のこなしでロケット花火の破片を拾っています。
「あっちにもあんだろが!」
「うん!」
 
 憐れでしたが、滑稽でもありました。異様な従順さから察するに、酔っぱらいではなくボケだろうと思われました。警察が来た所でやっと静かになりました。
 眠れないのでテレビをつけてみると、未明に北朝鮮のミサイルが日本海に着弾、との話題で持ちきりでした。
 なるほどそういう事か、わたしは合点がいきました。
 あの老人はこのニュースを見て、道路の真ん中でロケット花火を撒き散らす衝動に駆られたに違いありません。彼の脳内の“祭りスイッチ”が押されたに違いありません。
 参加者以外にとっては迷惑でも、止める事は憚られる――近所の人たちはわたしと同じく早朝の“祭り”をカーテン越しに窃視していた事でしょう。
 
 以前にも書いたはずですが、傍若無人な老人はこれからどんどん増殖を続けるでしょう。その理由はよく解りませんが、孤独や疎外感からくるものと思われます。
 最近はよく河川敷に出向くので、パークゴルフやゲートボール等を愉しんでいる老人達をよく見かけますが、彼らは所謂ハイソサエティー側で、カビ臭い部屋で独り鬱屈している老人の方が圧倒的に多いのではないか? というのが、少なくともわたしが住む地域での印象です。もっと言えば、老人施設に入れる人の方が幸福だ、とも思えます。
 よくあるアパート火災で老人が死ぬシチュエーション、実は自ら放火したケースが非常に多いということは、ニュースでは決して伝えません。
 
 暗黙の、最期の花火なのかも知れません。