三十三歳の痴図

 
 ちょいアタマがワルおやじ、中上ですこです。あ、肝臓も。
 
 14日夕方、昔懐かしワンギリコール。見ればヒロ吉からである。
 そう。彼は、通話料が勿体ないからワンギリをしてレスポンスを待つ、という生粋のジャイアン体質なのだ。
 
 
「もしもし」
「おう、ですこけ? わいや」
「どもっス」
「おんどれは三連休け?」
「いえ、日曜は仕事なんス」
「ほうけ……ほなええわ」
 一方的に切られる。
 
 ビール(発泡酒だが)を呑みながら日記を書いてコメントにレスをしていると、ジャイアン特有の、野生の熊のような鋭い嗅覚が作動したのか、再度電話が鳴る。
「おう、わいや。わいはプロゴルファー猿や!」
「……」
「ぐふふふ。おもろいやろ?」
「は…はぁ」
「おんどれ、明日は休みっちゅーとったな?」
「ええ、休みです」
「ほな今から行くわ」
「はぁ」
「いまからゴルフ行こや」
「……」
「ぐふふふ。おもろいやろ?」
「……」
「ジョークやって! ほんま勘が悪いのぅ! 鳩が豆鉄砲喰らってるよな顔が目に浮かぶわ! ほな、今から行くけぇ、待っといてや!」
 一方的に切られる。
 実際ぼくは、彼が言った通りのミッフィー顔だった。
 
 電光ナンバー777の爆音が近づき、チャイムが鳴る。ドアを開けると、ご丁寧にもしゃもじを持ってこう言った。
「奥さん、隣のばんごはん!」
「……」
「ぐふふふ。おもろいやろ? ほな、上がらせてもらうで」
 ワイルドなのか、芸が細かいのか、彼のうなじの毛はちゃんと輪ゴムで縛られていた。それを見せようとしないところが(むしろ隠そうとしている処が)、ワイルドだと云える。
 
「おんどれが好きなプレミアム・モルツっちゅーヤツ、買うてきたで」
「あざっす。いただきます」
「おう。好きなだけ飲んだらええがな」
 2本しかないのに。
 
 アボカドディップを差し出す。
「なんや、コレ?」
「それをポテチにつけて喰うと旨いんっスよ」
「ほんまけ? なんかごっつきもいやん」
「それが旨いんスよ」
「嘘こけお前! コレ、赤ちゃんのウンコやんけ!」
「ち、違いますよ」
「だってお前、あれやん。検便の時に、イヤだからって犬のウンコを提出したら校長に呼び出し喰らってたやん!」
「そりゃ昔の話ですって。まあ食べてみて下さい」
「ほんまやな? ウンコやったらシバくで?」
 
 慎重に、極めて注意深く口に運ぶ、野生の熊。
「どうです?」
「……めっちゃウマイやんか!」
「でしょう?」
「お前コレ、店だせるやん! 金なら出すで!」
 なんだろ、このノリ。しばし談笑。
 
「そろそろ行こかー」
「代行呼んで帰りますか?」
「アホ言えお前。ジンギスカンに決まっとるやないか」
「はぁ…じゃあ行きましょうか」
 午前2時、徒歩で向かう。
 
「やっぱ本場の味は違うのぅ」
「旨いっスね」
 すると突然、店員を手招いてこういった。
「おばちゃん。〆に山羊の頭のスープ、頼むわ。例のアレや」
 困惑するおばちゃんを尻目に、ぼくの耳元に小声でささやいた。
「ぐふふふ。おもろいやろ?」
 
 帰路の道中、公園がある。
「あそこのブランコ、乗ろか」
「はぁ…」
「どうやって漕ぐんやったかなぁ」
「ぼくも忘れちゃったかも」
「昔は一回転だってしたのになぁ。ほな、鉄棒やろうや」
「はぁ…」
「お前のその腹じゃ、逆上がりもできんのんとちゃう?」
「で、できますよぅ!」
 
 帰館、就寝。イビキを待って、扇風機を自分の方に向ける。
 
「おはようございます」
「あー、おはよ」
「顔でも洗いますか?」
「おー、すまんな」
 しばしつまらないテレビなんぞを見る。
 
「ラーメンでも食べますか?」
「ごっつ喰いたいわー」
「何系がいいです?」
「何系いわれたって、ようわからんし、任せるわ」
 
 寝起きラーメンをかっ喰らう。
 
「どうでした?」
「めっちゃ旨かったわー。でもな…」
「でも、なんです?」
「わしな、ラーメンのもやしはあんま好きちゃうねん。でも、もやしは嫌いちゃうねんで? もやしは好っきやで?」
「味噌系にもやしは必須だと思いますけどね」
「せやけどー…。せやけどー、せやけどーぉ!」
 押しが強いクセに、押されるとめっきり弱い。
 
 家の前に到着。
「じゃあ、気をつけて帰って下さい」
「おおきに! 今度バーベキューでもしよか?」
「いいですね。どこでやります?」
「昔と同じく、あの川縁でや! ほなな!」
 
 角を曲がるまで、バックミラー越しに目が合っていたあんちくしょう。
 
 
 ってことで、おたんじょうびおめでたうヒロ吉くん & 変なキャラ設定ごめんなさい。