まだ生きている人たち
傷の想い出、ですこです。肉体の損傷は、形状記憶のハシリだと思います。
最近、やたらと懐かしい人に遭遇する機会が多い。今日も仕事先で遭った。
彼とは以前にも一度会ったが、その時は「ずいぶんと愛想の良い若者だな」と思っていた。そして今日の再会では、やたらニコニコしながらヤケに親しげに話しかけてくるのだった。
「こいつ、ホモか?」と一瞬おもったが、彼はハンサムだしその気はなさそうだ。
そうして彼と二人きりになった時、彼はおもむろにこういった。
「○○町だよね?」
伏せ字の部分はぼくの地元である。言われてみればどこかで見た顔かも。中学時代の後輩だろう。
顎を撫でつつまじまじと見つめながら「ああ、名前は?」と偉そうに訊いてみた。
「K石だよ。妹と同級生だよね?」
脳味噌の中身ぜんぶの、ワカメみたいにユラユラしていた触手細胞たちが一斉にシャキーン! と硬直した。一瞬で全て合致した。
「わあ! K石くん!」
K石家とは、実家が激近なのだ。彼はぼくより二つ年上の、クールなおっとこ前である。
「なんだよ。気づいてなかったのかよ」
「年下のアンチャンかと思ってました。田舎の」
「田舎は余計だろ。こう見えてもいまは社長だよ?」
「マジっスか。にしても35歳には見えないなぁ、絶対」
「よく言われる」
「二十七八に見えますよ」
「よく言われる。兄貴は元気?」
「元気です。妹のT子は?」
「あいつはもう三人も子供を産んだよ」
「うへぇ!」
T子は華奢な娘だった。その彼女が三人も産むなんて、女はやはり先天的に強いのだろう。
ちなみにその昔、T子からはよく恋文を貰った。「ですこと結婚する!」と親兄弟に宣言していたようだった。また、その内容を年賀状にビッシリと書いて寄越した。しかも、家が近いので消印は無く、直接ポスティングされたものだったと記憶している。まあ、昔の話だ。
で、ぼくはジョークを思いついた――
「その三人の子供うち、ぼくの子供が一人いますぜ? クックック」
さすがに殺されそうだったので、それはよした。ぼくも大人になったもんだ。
K石くんと会ったのは、実に18年振りだろう。だってその時のぼくは14歳だぜ? 凄いよ。よくぞぼくの顔をなんぞを憶えていたものだ。
察するに、彼は初見からぼくの事を判っていたに違いない。気づいていないが為のぼくの素っ気ない態度が故に彼の笑顔がこころなしかひきつっていたに違いない。彼は、紳士だった。
ごめんよ、K石くん。でも、いつかもう一度会ってあなたをすぐに思い出せるのかと云えば、ぼくにはその自信がない(こらおっさん)。
だがしかし、ぼくはあなたの振る舞いを、いたって謙虚だったもどかしさを、決して忘れはしない。
ぼくは初めて、あなたを記憶した。次回は、あなたに肛門を差し出す事だって厭わないのさ。
mixiをやるようになって、というかmixiに友人を誘ってから、懐かしい再会がいくつかあった。
でも顔が想い出せない。だから卒業アルバムを引っ張り出して、開いてみた。縁がヤニで焼けていた。
みんな、変な顔だった。ぼくも変な顔だった。
でもみんな今頃は美男美女なんだろう、そう思うけどね。
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