ウルルン滞在記

 
 続き、ですこです。
 
 神からの電話を、国道12号線で正座して聞きながら話していたぼくは、惜しむべくからず電話を切った(意味わかんねーよ)。
 
 トイザラスに入り、神の余韻に浸りながらおもちゃを選ぶ。
 おままごとセットDXである! DXである! DXにはガスコンロが付いているのダ!
 
 いざ出発。虻田郡京極町倶知安よりは近い。余裕である……だが残念な事に、ぼくの車のエアコンガスは切れていて、エアコンが効かないのだった。灼熱地獄、走る電子レンジ。
 蒸し風呂状態でひた走り、中山峠でコーラを飲み干す。
 再度ひた走る。不安だ。何がって、この車がいつルパン三世みたいに自ら大破してもおかしくないのだから。
 ひたすら田舎道を走り、目印の建物を発見。こんくしゃんに電話をする。
「こっちこっちー」と手を振るこんくしゃんと娘のn子1歳半、ラブリーn子。
 以前、n子には目が合ったとたん号泣されたが、今回はおもちゃのお陰で泣かれる事は無かった。おもちゃパワー、である。
 このおもちゃ、「おままごとセットDX」とは、プラスチック製の野菜やハンバーグが予め二つに割れる仕組みになっており、それはマジックテープでくっついている。
 それを付属の包丁で切るのだが、マジックテープが離れる時の「ザックリ感」が、ザックリとしててイイ感じなんです。実際ぼくも、何度もザックリやった。
 とにかく、ぼくはこのウルルンの中で一番懸念していた“n子の号泣”は回避できたってわけだ。
 
 こんくしゃんは、汗だくのぼくに麦茶をくれて「これ飲んだら、もう呑み始めよう」と言った。
 会場は裏庭で、アウトドアセットが用意されていた。羊蹄山をバックに夕方から呑み始める、ってワケよ。
 
 
 
 気分は戦国時代の軍師同士の飲み交わし、羽で出来た団扇が似合うのさ。
 
 n子はぼくを警戒している様子で、3秒間目が合うとこんくしゃんにダッコをせがむのだった。ぼくとて4人の叔父である、作法は分かっている――ここは、遠くで目が合うだけで充分なのだ。
 
 n子の母、大文字N子が帰ってくる。こんくちゃんが子をあやしている中で、N子の帰宅音を最初に聞き分けたのはぼくだった。でもそれは自然なことのように思えた。彼らの中では日常の音なんだろう。
 網戸越しに手を振る。N子を見たn子は、テンションが上がる。知り合って数年経つN子かあさんの姿は、改めて見ると新鮮だった――ママになったなァ!
 
 携帯コンロにアルミ製ジンギスカン鍋、上に乗りますは“京極ジンギスカン”であります。
 余談だが、北海道は「タレ漬け」と「タレなし」にキッチリ地図で色分け出来るくらい、地方で別れるらしい。正直、ぼくは「松尾ジンギスカン」のような、甘ったるいタレに漬かっているジンギスカンは苦手だ。
 だから「京極ジンギスカン」は不安だったが、まだ赤さを保っている肉片を見て安心した。
 コレは所謂「味付けジンギスカン」ではなく、「タレがけジンギスカン」なのだ。
 地元では一番の【あんぽ】という肉屋の特製のタレがかかっているだけだった。漬かってはいなかった。
 喰ってみると、これがマジで美味いんですよ。甘くないし、イイ感じ。
 先にも書いたけれど、地域によってジンギスカンのコダワリはカタクナらしい。
《京極の味はあんぽ》らしくて、例えばその人たちを札幌の極めて旨いジンギスカンに連れて行っても「あいや! 地元が最高!」と、言うらしい。
 こうなるとさ、《地域がおっかさん》で、《ジンギスカンが味噌汁》なんだよな。
 
 ぼくはある種の広大さとそれ故の狭さを、味覚をもって感じたわけだ。
 それは都会にだって云えるってこと。つまりさ――
 
 さあ、長くなりそうなので(すでに長いが)、また明日に続けましょう。