八色目の憂鬱

 
 ギタービームですこです。小一時間黙々と弾いていると出るんだ、光線が。
 
 ギターを買った。フェンダージャガーという機種だ。以前までずっとストラトを使っていたので判るんだが、ストラトキャスターの完成度は相当に高いということ。それに比べるとジャガーは、サスティンは劣るしトレモロやブリッジの部分が共振しやすい構造になっていて“工業製品”を謳うフェンダーらしからぬ製品だ。それでも充分にフェンダーらしい「スコーンと抜ける音」なので満足している。
 たぶんもう、ストラトレスポールを所有することはないだろうと思う。この二機種は、ぼくにとっては完成度が高すぎてしっくり来ないのだ。人間、三十半ばにもなると自分の特性というものがわかってくるし、「誰かになりたい」などとは露ほども思わなくなってくる。だから変な色のギターを買った。メタリックなくせにとてもチープなカラーだ。そうだよな、スパンコールってひどくチープだもん。
 若い頃は奇をてらってでも個性的であろうとするし羨望の対象だったりするんだけど、没個性に身を置いてみると「自称個性的」の無個性さが滑稽に思えてくる。とはいえ、紋切り型にも厭気がさすし、じゃあどこに個性が宿るのかと云えば、ニュアンスじゃないかと思えてくる。それも微妙な。
「喧噪の中で人格は形成され、静けさの中で才能は伸びる」と偉い人が言っていたけれど、個性ってもうすこし静かなものじゃないかなと思ってきた。家具の音楽とまでは言わないが、すくなくとも工事中や模様替え中ではないだろう――
 
 と、ここまで書いていると会社から電話が。「あした早出しろ」だってよ……こんな夜中に。
 怒りのビームが脳天から放射状に出てきたぞ。