働くおっさんの顔面パック

 
 働くおっさん劇場が最終回を迎えて落ち込んでいる、ナースマンですこです。淋しい。本当に、淋しい。
 しかしながら、予定は未定ですが「サードシーズン」が放送されるとの正式アナウンスもあったので、いまから心待ちにしております。
 
 用もないのにダ○ソーに行ってみる。久し振りに訪れると愉しいので店内を徘徊する。なんでこんなに安いのか、不思議でならない。特に食器類が安い。すぐに欠けてしまうことを前提としているかの如く安い。新品でありながら、既に買い換えの匂いがする。
 
 こういった食器類を利用しているお店は、新規オープンした小さな料理屋に多い。店長は二十代から三十代にかけての女性で、雇われ店長である。見た目は結構派手で、髪はソフトアフロをかけており、勤務中はそれをバンダナでまとめている。夜遊びは一通り経験したが、一線を越えない堅さはもっているのは、田舎の父親がお堅い職業に就いているお陰だろう。副店長らしき男性は若く、二十代前半で、これまた見た目は派手だが人当たりはとても良い。最近、ギル・スコット・ヘロンを聴き始めて、友人たちに勧めている――
 そんな、“さんざんジャンクな生活をしてきた人間が急にロハスの仮面を被り始めたお店”に、百均の食器は、多い。

 
 特に欲しい物もなかったので菜箸とザルを手に取ってレジに向かう途中、化粧品コーナーがあり、そこには『炭パック』なる商品があった。下の方には「はがすタイプ」と記してある。これも百円なのか、と買ってみる。
 ドラマだったか、サザエさんのび太のママだったかは忘れたが、幼き日はテレビで目撃した顔面パックに憧れたものだった。母にパックをするようにせがんだが、当時はPOLA化粧品を愛用しており、そこには剥がすタイプは無いという。優しい姉はわざわざ買ってきて、顔面パックをやってくれた。日焼けした背中の皮を剥くような、小動物じみた楽しさがあった。
 なぜ顔面パックに憧れたのかと云えば、いま想えばたぶんスパイとかギャングだったんだろう。
 
 片手にアタッシュケースを持った背広の男が、人混みに紛れて、尾行していた刑事を巻く。
 早足で歩道橋を上がる。向こうからは、同じく怪しい男がやってくる。歩道橋の上で、すれ違いざまにアタッシュケースを素早く交換する。
 男はビル影に隠れて、顎の下から仮面を剥ぐ。そして人混みに消えてゆく――

 
 そんな想いを馳せながら、鏡に向かってコールタールのようなパックを顔面に塗りたくる。乾くまで十五分と書いてある。マンガだとこの状態でチャイムが鳴って、ドアを開けると訪問者がヒィと驚くのが定石だ。
 
 鳴った、のだ。
 
 しかも最近、電池を替えたばかりなので音が大きく、胡座のまま少し飛び上がって、ヒィと洩れた。
 心当たりはある。だが時間指定は夜間にしていたはずだが、もしかしたら福○通運は指定ができないのかも知れない。
 真夏の小学生たちが手の平で頬を擦って「垢擦り合戦」をする要領で、半乾きのパックをなるべく落とし、ドアを開ける。
「お荷物でーす」
 威勢が良い。
 ぼくは寝起きの不機嫌を装ってうつむき、無言である。
「ここにお願いします」と押印する場所を指さした。
 ド近眼を装い、棟方志功ばりの近さで、シャチハタを突く。
「あざーす」
 どうやらパックはバレずに済んだようだ。
 部屋に戻ると、足下にはさっき剥がしたパックの滓と、それに混じった垢が散乱していた。それを掻き集めて、指でつまみこねくり回して、匂いを嗅いでみる。安っぽい化粧品の匂いがした。母の首筋と同じ匂いがした。
 
 プリンタを新調したのだ。
 モニタもそうだったが、型落ちの新品は驚くほど安い。型落ちと云っても、インクは同じだしスペックにも差はない。まことにパソコン周辺機器という物は、一ヶ月単位の過渡期である。こりゃメーカーも大変だろうナ。
 特にプリンタは必要じゃないんだけど、手持ちのDVDコレクションをピーコして売り捌こうと思って、盤面にプリントしたかったのよね。それだけ。CDはちゃんとした形で持っておきたいという蒐集癖はあるんだけど、DVDにはそれがまったく無い。かさばるし。とはいえ「The Blues Movie Project」だけは売らないけど。
 どなたか、キューブリックのBOXと、ビートルズのBOXと、SNLサタデー・ナイト・ライブ)のBOXを買いませんか。お安くしときますよってん。
 CDは何度も繰り返し聴くんだけど、映画ってよほどじゃない限り一度しか見ない事にやっと気づいた、三十三歳の初春です。