天使は鏡を見ない

 
 歴史の偉人の後半からマナブー(坂本龍馬、享年三十二歳なのに)、ですこです。
 
働くおっさん人形〉および続編である〈働くおっさん劇場〉によって時代の寵児に躍り出た野見隆明さんのオフィシャル・ホームページができたようです。
 
 ⇒ 野見隆明 OFFICIAL ホームページ
 
 ひっじょーに見づらいHPで、ウン年前にどこかのおばさんが頑張ってホームページビルダーを使ってペット(狆)のサイトを作りました的なショボさで、且つ読者のことなど念頭にない猪突猛進型HPであります。ある意味、野見さん的とも言えましょう。
 頑張ってスクロールしながら読破しました。全体から漂う胡散臭さもそのデザインによってさらに強調されていますが、読む限りどうやら本当に公認のようです。
《ノミラー》と称する支援団体が書いている事に信憑性があることは、野見さんのレアな画像によって理解できますし、この画像だけでも充分な価値があります。
 このHPによりますと、いま現在ハッキリしている事は――
・野見さんは絵画の営業を辞めて
・芸人として生きていく決心をかため
・故に無収入であり(携帯料金未納は本当らしい)
・先の見通しはまったくない

 そうです。
「マネージメントと称してノミラーが野見さんを騙しているのではないか」という懸念もあるようですが、ぼくが思うに、HPにくどいくらい書かれている通り、あくまで野見さんの自発的態度によって始まったのではないかと考えています。
 人形時代から劇場の中盤まではかろうじて昔の野見さんでしたが、いつからか「リーダーシップ」を発揮するようになりましたし、浅見さんに対する過剰な負けん気は、既に決意を固めた後の崖っぷち根性だったとも思えます。
 また、両手の爪に青いマニキュアを塗ったり、ネクタイは意外と派手だったりと、じつは自己顕示欲が強いことも窺えます。奇異の目を羨望と勘違いする。あるいは、奇異の目でもいいから見て欲しいと希う。そして眼が合って(相手は目尻で捕らえているだけだが)、嗤う。だが歯はない。歯なんかどうでもいい。ない方がいい!
 最も懸念すべき事は、野見さんの力のベクトルがまずい方へ向かうことでしょう。陳腐な譬えですが、ピエロを演じて客を悦ばせるためには相当な技術が必要です。ジョン・ウェイン・ゲイシーじゃありませんが“成し遂げる”ためには、裏の顔は強靱な静謐がなければ務まりません。
 はたして野見さんにそれが出来るはずもなく、サード・シーズンのオファーが来た後にギャラを巡って本人と取り巻きたちがテレビ局と金額の引き上げ交渉をし、それは決裂する。その理由は金額ではなく、既に野見さんは自身の魅力を、あのサイケデリックな唐草模様のような、犬歯で噛み切った影絵のような禍々しい輝きを、喪っていたからだ。
 誰しも己のすべてを自覚しているわけではないし、自認によって導かれた相手の頷きの八割は嘘であり、その内の五割が陰口の種となって散乱し、人の笑顔は十分咲きである。しかもなかなか枯れない上に繁殖しやがる!
 浅見さんが芸能プロダクションに属している事は有名ですが、派遣マニアである福田さんも“登録”しているらしいし、青柳さんが役者を目指してレッスンを受けている事はいわずもがな。いちばん働いているおっさんは吉田さんだろうけど、三年経ってもいまだに『芥川龍之介論』を執筆していないという事は、彼もまた働いていないおっさんなんでしょう。吉田さんは作家を目指している節がありますが、ぼくは青柳さんが小説を書いたら面白いと思います。彼が女装を始めたきっかけはとても文学的で、その光景に詩情すら感じました。
 なにがどうであれ“自覚”こそが、ワンランク上へ昇るひとつのきっかけなのかも知れません。
 じゃ、野見さん。がんばって。