お前が唄うんかい!

 
 知ってる。このブログが毎日書いていない事に不満を覚えつつも、明けに文章がやたらと長いとそれはそれで苛つくんだろ、ですこです。
 休んだ分だけツケは長い。ぼくは江戸っ子だ。
 
 スーパーで牛肉が安かった。それもステーキ肉が驚くほど安くて、すぐさまカゴに入れた。久しく家では牛肉を食べていないんである。ついでに安売りしていた浅蜊も購入する。
 買い物袋を片手に二つ持って玄関の階段を上がり、空いた右手で鍵を開けて部屋に入る度に想うのだが、荷物が大きければ大きいほど、後ずさりで餌を巣に運ぶ蟻のように感じる。蟻は外食をしないのだろうか。
 冷蔵庫の前で、立ち膝の姿勢で食材を突っ込んでいると、さっきの牛肉がアメリカ産である事に気づいた。「ヤラレタ!」とは全く思わない。むしろ喜ばしい。ぼくはプリオンとやらは眼中にないし、かかって来いと思っている。何故なら、ぼくの脳は既にスポンジ状だからだ。
 そんなぼくも、中国産の野菜は極力買わないようにしている。最近になってやっと中国のずさんな管理体制がじわじわと問題になってきているが、結構むかしから懸念されていた。ぼくは搾菜が好物なのだが、何かで中国産の漬け物の実態を見てからは、安価な物ではなく、ちゃんと桃屋の製品を買うことにしている――が、搾菜の原料は中国産なのか?
 いつもは高くて買わなかったきぬさやが、異様に安かった。五十個ほど入って100円である。案の定、中国産だった。手にとってまじまじと凝視してみる。くすみのない緑色をしている。若そうだ。人間ならば中学一年生くらいだろうか、部活帰りの頬のような艶もある。このピチピチした張りは、成長の早さが、用意されていたたわみを超えてしまった時に起こる現象か、あるいは一人用の寝袋で行われている情事を想起させ、いずれにしても我々の唾液腺を刺激するのだった。
 国産のきぬさやと見比べてみる。わたしは、産まれながらにして装備されてる色眼鏡を外すべく、両手にきぬさやを載せて眼を瞑った。数秒後、あたたかいヴァイブレーションがわたしを包みこみ、スーパーのアナウンスがディレイを伴ってフェードアウトしていき、そのうち母の温度で耳を塞がれた。わたしは羊水の裡にいた。遠くで幽かに音が聞こえた。テレビの雑音も伴っていた。三時のあなただ。耳を澄まして、聞き分ける。意志によって鋭敏な感覚を取り戻せる聴覚という器官に、ぼくは少しだけ感動して、優等生気取りの視覚をこき下ろしてやった。徐々に音量が増してくる。女性の声で、発信は背後のようだ。肩胛骨の辺りをグイッと突かれた。
「さっさとどきなさいよ」
 見知らぬおばさんだった。搾菜みたいに歪んだ顔をしていた。
 油揚げをカゴに放り込む。今夜の味噌汁はきぬさやと油揚げだ。きぬさやをたっぷり入れて、な(やっぱり買ってんじゃねーか)。
 ステーキ皿なんて物はないので、小さめのフライパンで焼いて、そのまま食べる。冷めたステーキなんか最悪だ。フォークを使うとフライパンに傷が付いてしまうので、焼き上がった肉をトングで持ち上げて、踊りながらキッチンバサミでジョキジョキ切る。どうせサーロインじゃない、こうして喰った方が旨えんだ。ソースはワインと醤油とレモン汁、うまかった。危険な味がした。ワイルド・サイドを歩いたぜ――四つん這いで。
 鍋敷きなんて物はないので、既読のTV Bros.で代用。なければ未読の広報さっぽろで事は足りる。
 ビフテキ(古!)の免罪符として野菜も喰った。サラダ菜とトマト。ぼくはサラダ菜が好きで、どうして彼らのような美味しい野菜が敷物として、脇役として甘んじているのか、まったく理解し難い。まあ見てろ、サラダ菜はいつか必ずメインの座を勝ち取る!
 


 
 YouTubeの愉しみ方はそれぞれ多様にあると思うんだけど、ぼくも最初の頃はライブ映像なんかを観て嬉々としていたが、最近はもっとレアな映像を面白く観ている。レアと云うのは、ブートじゃなくて所謂 How To物 で、おそらく今は購入不可能と思われる映像だ。名のあるミュージシャンがかつて教則ビデオを出していたようで、それが面白い。
 
 

 http://www.youtube.com/watch?v=gujufbGoS20
 自らのミドルネームに"Pretty"と付ける名ドラマー、Bernard Purdieのレッスンだ。見ればわかるが、これはレッスンではない。オープンハイハットとバスドラを同時に鳴らす事が気持ちよくて堪らないだけのビデオ、である。でも面白い。彼が無数のレコーディングに呼ばれた理由は、この映像を見れば判るだろう。ただ気持ちいいのだ。
 
 

 http://www.youtube.com/watch?v=gujufbGoS20
 ぼくがレイヴォーンを最初に知ったのは、以前に書いたマニアックなレンタルビデオ店で借りた『The Bulues Session』というビデオだった。B.B. KINGがメインで、そこにゲストが多数呼ばれてB.B. とセッションする、というものだ。クラプトンも出ていて、彼は既に人気があったようで、レイヴォーンは脇役だった。B.B. とサシでは演れない低い扱いだったと記憶している。
 音は硬質で鋭かった。手首を固めて二の腕でヴィブラートをするのはクラプトンも同じで、当時の流行りだったのか、今ではお目にかかれない奏法だ。
 日本ではやたらと人気があるSRVとクラプトンだが、ぼくは冷めている。うんざりしている。でもこの映像を見てSRVを見直した。彼が“自分のBoogie”を持っていた事を初めて知った。ライトニン・ホプキンス、マジック・サム然り、自分の名を冠しなくとも、かつてのブルースマンは名刺代わりに“自分のブギ”を持っていたのである。ぼくもかつては持っていた。見知らぬ人に「弾いてみてよ」と言われた時に際して、自作の爆弾を用意していて、それで幾人かを爆撃してみせた。今ではもう、不発弾だが……。
 
 
 本題。
 そうしてレッスンビデオを探していると、あるモンゴロイドに辿りついた。この野郎は奇しくも日本人だった。短髪の眼鏡で、アコギを抱えた姿のサムネイルだった。
 直リンがはばかられる内容なので、hは省いておく。
 
 ttp://www.youtube.com/watch?v=Amf0iVRJioA
 
 紛れもない「レッスン・ビデオ」だ。
 ぼくはこれに対して、とやかく言うつもりはない。喚起された全てを、注意深く選別して、拒絶している。
 でもぼくはこの「ハウツー」を見て、一つの闇を感じて、がっつり凹んでしまった。未来は無い、と心底おもった。でもいくゼ! かまうことはない! おっけい、いくぜ! レッドスネーク C'mon! 
 
 ノーヒューチャー(タイトルへ⇒)