コロッケ考

 
 ホクホクしたい、赤貧ですこです。
 
 ミートホープによる食肉偽装が問題になっとりますが、べつにメンチカツじゃないんだから、大半がじゃがいもの牛肉コロッケにちょびっと豚肉を混ぜたくらいであんなに怒る必要があるんですかね。世論を煽って、政府の不手際から目を逸らさせようとの陰謀を感じずにはいられません。
 まずかったのは発覚した当初の言い訳で、「機械を洗浄していなかったので混じった可能性がある」と、火に油を注ぐような稚拙な言動によってこの会社の程度が知れてしまったことでしょう。こうなってしまうと、色んなところを洗うしかありません(←ここ巧いところ)。
 ぼくはですね、こんなことは他の業者もやってるんじゃないかと思っています。そもそも冷凍コロッケなんて、いくら牛だの豚だのと謳ったところで肉のつぶは申しわけ程度にちびっとしか入っていませんので、違いといえば貧相なパッケージのデザインだけで(というか文字だけ)、中身はほとんど一緒ですよ。ましてや、ただでさえ下等な肉を冷凍しているわけですから、味の違いなんか判りっこありません。
 偽装した食品に騙されたことに憤慨すると同時に、己の味覚の鈍さを改めて提示されてしまって、わかったふりのわからない人たち、でもわかっていたい人たちの喧噪が、食肉偽装のややこしいところで、怒りの相乗効果を生み出してしまうわけです。
 
 書いていて、いま想い出しました。わたくし、高校生時分に冷凍コロッケ工場でアルバイトをしたことがあるんです。
 本当は工場なんかは厭でしたが、短期かつ近所という事で応募してみると、即日採用でした。
 いきなり帽子やらマスクや手袋を着させられて、教育テレビの工場見学的な番組で見た格好とまったく同じでした。まだ色気づいていた高校生のぼくは、その時点で「よし、辞めよう」と決意しました。とはいえ、いますぐに走り去るわけにはいきませんでした。
 着替えてから、工場内へ入る手前に大きな鏡がありました。衛生管理のために、自分を映して服装のチェックをするのです。帽子を深く被り直したり、ずれたマスクをつけ直したり、あるいはマスクを引っ張って思い切り溜息を吐いたりするための鏡です。
 当時のぼくは眉毛を細く剃り上げており、いまよりもずっと目つきが悪かったので(現在はつぶらな黒目がちの瞳ですが)、完全武装した己の姿にテロリストを重ねたりしたものでした。
 工場内の室温は予想以上に低かったのですが、ぼくが驚いたのは、絶景と呼ぶに相応しいその“工場然”とした光景でした。ほんとうにあったのか、というのが率直な感想でした。
 札幌ビール園ほどの高さがある天井の端から、3000個の冷凍コロッケが吐き出されてベルトコンベアに乗ってくるのです。もしぼくがコロ助だったのなら、狂喜して卒倒していたでしょう。あるいは、3000個のコロッケに向かって、前のめりに身を投じ、コロッケ自殺を謀ったかもしれません。コロっと逝っちゃいます(←ここ笑うところ)。
 ぼくの仕事は、ひたすら流れてくる冷凍コロッケを袋詰めにする作業でした。切り込みができると綺麗に裂けてしまうような少し白っぽいビニール袋に、コロッケを6個詰めるのです。ひたすら、ずっと、“それをやるようでした”。
 予測っぽく書いたのは、ぼくがその仕事を貫徹できなかったからです。学校が終わって面接に行ったのは17時くらいだったでしょうか、面接を終えて始業は19時で、ぼくが逃げたのは21時でした。正味2時間の、貴重な体験で御座いました。
 休憩室で着替えていると、工場長がやってきました。
「どうしたんだ、突然」
 ぼくは無言のままブレザーに袖を通します。
「無理か?」
 ぼくはこっくりと頷きました。帰ろうとドアを開けると、「なあ、ですこくん」と工場長が言ったので少し緊張しました。
「就職は決まったのか?」
 ぼくが進学するようなタイプじゃないことを見切られた質問に、すこしだけ苛立っちました。
「いいえ、まだですが」
「製造業はやめておけ」
 工場を出て自転車に跨り、ぼくは夜空に誓いました――「今後、コロッケは自分で作ろう」と。
 数日後、その会社から電話がありまして「給料を取りに来い」と言うのです。ぼくは、金なんかいらねえと思って逃げ出しただけに、狼狽えました。「いえ、要りません」と言っても「法律で決まっているので」と返されてしまった。
 この時のぼくの気持ち、お察し下さい。無数のコロッケ爆弾と戦っている人たちを見捨てて逃げてきたにもかかわらず、給料だけは取りに行くというこの厚顔無恥の沙汰を! 仮病で兵役を免れた、うつむき加減の老人たちと同じだ!
 ご丁寧な封筒に、千円札一枚と小銭が少々、明細まで入っておりました。
 逃げるように建物から飛び出して、その足ですぐ近くのパチンコ屋に行きました。2時間の給料が、10分で消えたのでした。
 さきほど「もう冷凍コロッケは食べない」というような意味合いの発言をしましたが、サンマルコ食品は例外です。
 お世話になりました。いい、会社です(長嶋一茂風に)。
 http://www.sanmaruko.co.jp/index.html
 
「男性は肉じゃがを喜ぶ」と思っているそこの負け犬中年女性諸君、それは間違いです。男は、肉じゃがにはさほど喜びませんし、ちょっと料理ができる男ならば、肉じゃがなんかは簡単に作れることを知っています。もし喜んでいたとすれば、それは「喜ばなければいけない」という義務感からでしょう。貴女が、執拗なクンニに喘がなければならないことと、一緒です。
 同じくじゃがいもと肉を使う料理なら、コロッケがいいでしょう。挽肉を混ぜますが、牛だろうが豚だろうがなんでもいいんです。コロッケはポテトが命です。できれば茹でるのではなく、ふかしたじゃがいもを(余計な水分が少ない)マッシャー等を使って、粗く潰します。5ミリ四方の塊がランダムにあるように潰して、更に少し皮が混入していた方が有り難みが増します。玉葱をしんなりするまで炒めて、挽肉を入れるのですが、入れすぎはいけません。まさしく“冷凍コロッケ程度”でいいのです。入れすぎは下品です。「せっかくだから全部つかっちゃおう」という女性を、男は信じません。あまった挽肉で今度はなにを作るのだろう、と想像させることが重要ですので、ラップに包んで冷凍しておきましょう。その際、平べったく形を整えて冷凍すると、解凍しても味の下落を最小限に留めることができます。衣は、生パン粉は論外です。それはトンカツの話で、コロッケにはスタンダードな古き良きパン粉が似合います。市販のコロッケみたいなワラジ型にするよりも、同じ市販でもコーンクリームコロッケのような俵型にする方がよいでしょう。でっかいコロッケが2個よりも、俵型を4個の方がいいです。できれば4個とかではなく、20個くらいをドカンと山盛りにして頂きたい。ごはんのおかずにするのではなく、コロッケそのものをぱくぱく食べられるようにすればいいでしょう。その隣でビールのリングプルをプシュウと引かれた日にゃ、もうね、一生尽くしますよ。コロっと(ry
 
 コロッケは、素晴らしいのです。あんまりいじめないで下さい。