ダッ、ダッ、ダッダダ、ダダダダダ!

 
 書くことねえなあ、やさぐれですこだ。今日はやさぐれてやる。でも俺は知ってるんだ。敬語で書く方がずっと楽だってことをな。語源を知ってるか、やさぐれ。「やさ」は家を指すんだよな。「ぐれる」は、はぐれるの短縮だ。つまり家出少年の気持ちをあらわす言葉だ。勉強になったかい。俺が初めて家出をしたのは確か小学校四年生の時だったかなぁ。つっても泊まり歩いたわけじゃなくて、追い出されちまって夜のおんもで途方に暮れただけだ。でも淋しかったなぁ。ハートがこう、きゅーんと縮むのがわかったよ。みなしごの気持ちがわかったな、あん時は。涙の代わりに洟が出てきてよ、鼻孔に砂埃が付着して穴が塞がったんだ。いや、まじで。鼻の穴に小指を入れてみたけど完全に蓋をされてるんだ。そのまま突き破るのが勿体ないくらい見事な蓋だと思ったから、公園のごみ箱にあった割り箸をへし折って、尖った端くれで鼻孔のぐるりをそっとなぞって取りだしたんだよ。見事な鼻糞だったね、あれは。マリワナの水パイプにかますスクリーンのようだった。想えば大人になってからのハナクソってしょぼいよなぁ。まさにハナクソだぜ。夢がねえよ。いまの子供たちはどうなんだろ。俺なんかまだハナタレ世代で、ジャージの袖は鼻水でカピカピだったっけな。もっとも、今でもパンツはカピカピだけれども。そうそう、追い出された話な。学校終わって家に帰ったら、俺の部屋の荷物が一切合切、家の前に捨てられててよ、一瞬なにがおこっているのかわかんなかった。原因はたぶん万引きかなんかだろうな、学校が通報しやがったんだな。ブツはたぶん絆創膏か練り消しだ。前者はキティちゃん、後者はイチゴ味。どうだい、ファンシーだろ。流行ってたのよ、当時。買える金は持ってたんだろうけど、なんつーか腕だめしだな。イモ引いちゃうとナメられちゃうから。でも捕まっちゃうんだよ、プロじゃないから。いるんだよ、プロ、小学生でも。大抵の場合は極貧で、栄養が足らないのか、きまって痩躯だな。書いてて想い出したけど、俺が初めて万引きしたのは小学校一年生の時だな。同級生の土井ってやつに「欲しい物がなんでも手に入る」と吹聴されてデパートに行ったんだ。いま考えたら洟垂れ小僧の二人組がおもちゃのコーナーを徘徊してるんだから、ぜったいにマークされるよな。で、土井に倣ってTシャツをたくし上げてスライムを腹に放り込んだんだ。誰も咎めないので子供の特権なんだなと思ったよ。デパートを出ようと自動ドアが開いた時、背後から呼び止められたんだ。「ぼくたち、ちょっときなさい」 円い眼鏡をかけたおばさんだったな、もたいまさこ風の、売れ残った里芋みたいなババアだったっけな。デパートの裏の搬入口の脇にドアがある。中に入ると警備室ほど立派じゃない、無窓の小部屋だった。広さは四畳くらいかな。これを書くと大映テレビみたいな陳腐な描写になっちゃうんだけど、本当なんだ。ハンモックが吊されていて、それに男が横臥してたんだよ。ババアは俺たちを責めていたが、男はハンモックの上からなだめるんだ。元気があっていいじゃないか、とかなんとか。結局、親が呼び出されちまって、張り手を喰らった俺の鼻から真っ赤なスライムが出たってわけだ。で、何の話だっけ。そうそう、追い出された話な。結局は家に帰ったんだけど、一番ショッキングだったのはファミコンの本体が破壊されてたことだったな。あれは落ち込んだ。そしたら、七歳上の兄貴から電話が来たんだな。ド不良だった兄は当時、家にいなかったんだ。「聞いたぞ、ファミコン捨てられたんだってな」 それから数日後、我が家にファミコンが届いたんだ。ゴム製の四角ボタンじゃなくて、プラスティックの丸ボタンの新タイプ。あれはいい、連打でもくっつかないんだ。兄が買い与えてくれたわけじゃない。どこかのだれかから奪ってきた物に違いなかった。ソフトもたくさんついていた。それからだよ、俺が万引きの効率の悪さを悟って恐喝に軌道修正したのは。なんか昔話が長くなったな。見たかい、ニュース、袴田事件を。冤罪がある時点で民主主義なんざ欺瞞だぜ。自白って言葉は間違いだな、自黒だろうが。いや、他黒だ。勝敗をあらわす時に白星黒星の意味がたまに判らなくなっちゃう人に、いいことを教えてやろう。ケツに土が付くから黒は負け。エレベーターとエスカレーターの違いを言葉じゃ判らないお莫迦な人には、階段を象形したSカレーターと教えてやれ。あとな、時報と天気予報の違いな、117と177。ピッ・ピッ・プーッ! で音程と数字が一緒に上がる方が時報だと覚えろ。177なんかどうでもいい、それは忘却しろ。罪だね、鈍感な人は。この世で一番の罪人だ。鈍感な人に限って記憶に頼るんだ。異様な記憶力を発揮するサヴァン症候群、それはすなわち白痴を意味するわけだ。時間は記憶だと? こぼれ落ちているものを見ようとしないやつが何をか言わんや。ああ、俺は敏感だ、というか過敏だよ。ちんぽだけはな。早漏だよ、文句あるか。そういや、団塊世代の暇人どもが出版社を訴えたニュースがあったな。甘いんだよ、考え方が。てめえの苦労話なんか誰も興味ねえんだよ。同じくらいの歳の袴田の裁判官みたいに懺悔もできねえくせによ。でも商売としてはいいな、名案だ。どんどん出版して売れ残りは燃やして、きゃつらの好きな郊外型五右衛門風呂の燃料にすればいいんだ。自給自足、これぞ真のオーガニック。でさ、いままで蒸し風呂で我慢していた妻に年金分割でフラれて、畳に拳を打ちつけて独り善がりの涙を流しやがれ。そしてその水分で畳はカビろ。そのころ妻は南国のプールサイドでティアドロップ型のグラサンを掛けながらハバナブラックをくゆらせる――俺はこっちの話を読みたいぜ。そこにいい加減きづけよ。まったく、鈍感は罪だ。さて、長かったな。改行なんかしゃらくせえことはしねえよ。本当はな、句読点だってうざったいんだ。昔の日本語にはそんなものねえんだよ。読みにくい? いまさらなにを言ってんだよ。今日の俺は吃音のマシンガンなのさ!