暴走料理教室

 
 真夜中の公園。
 条件が揃えば、木々の伸びる音が聞こえてきそうなくらいに静かだった――ついさっきまでは。
「ベーンベンベンベン!」「ヴィーンヴィンヴィン!」と遠くから爆音が聞こえてくる。十人ほどの小規模な集団だが、その排気音で、なぜかそれが精鋭集団であることが窺える。
「キィーッ!」
 急停止して、先頭にいる純白の特攻服を来た男が、ハンドルに見立てて握っていた竹の棒を放り投げた。舎弟たちもそれに倣った。改造オートバイの排気音を口で真似ていたせいで、彼らの口元は涎でまみれている。
「行くぞこらー! イモ引くなよこらー!」総長が声を張り上げると、「オス!」と舎弟たちの声が揃う。
「火ぃ出せこらー!」
 一人が前に出て、背負っていたリュックからカセットコンロを二つ取りだした。
「鍋こらー!」
 こんどは二人が前に出て厚手の鍋をそれぞれ取りだした。
「調味料こらー!」
 砂糖、醤油、酒を取り出す。
「肉こらー!」
 およそ600gの豚バラブロックを取り出す。
「水こらー!」
 鍋隊はそれぞれ2リットルの水を汲みにいった。
「沸かせこらー!」
 コンロ隊は二つのコンロに火をつけた。
「ばかやろぅ! バチーン!」総長の鉄拳が火を噴いた。
「最初はひとつだこらー!」
 殴られた一人の鍋隊は手を後ろに組んで、オス! と言った。
 はずみでこぼれてしまった鍋の水を、もう一人の鍋隊が走って汲みに行った。
 総長はそれを目で追いながら目尻に皺を作った。
 
「沸いたかこらー!」
「オス!」
「肉入れろこらー!」
「オス!」
「弱火で茹でるぞこらー! ばっくれんなよこらー!」
「オス!」
 
「一時間経ったかこらー!」
「まだです!」
「あと何分だこらー」
「残り十分です!」
「じゃあもうひとつの鍋のお湯沸かせこらー! しんがり頼むぞこらー!」
「オス!」
 
「一時間経ったかこらー!」
「オス!」
「肉とり出してお湯すてろこらー!」
「オス!」
「同じ大きさに切れこらー!」
「オス!」
 
「調味料隊こらー!」
「オス!」
「分量言えこらー!」
「えっと……あのう、そのう」
 総長の目つきが変わって、しじまが訪れた。こっそり伸びていた木々は成長を中断した。
「副総長こらー!」
 副総長はすくっと立ち上がった。
「お前こらー! バチーン!」
「オス!」副総長は手を後ろに組んだままだ。
「勘違いすんなよこらー!」
「オス!」
「磨けば光るだとこらー!」
「オス!」
「磨いても光んねーからここにいるんだぞこらー!」
「……オス!」
 一斉に生唾を呑み込む音だけが聞こえた。
「クレンザーこらー!」
「オス!」
ピカールこらー!」
「オス!」
「ワンドロップレンズクリーンこらー!」
「オス!」
 
「お前が分量言えこらー!」
「オス! 砂糖100g、酒100cc、醤油100ccです! オス!」
「葱とか生姜とか入れんなよこらー!」
「オス!」
「それをどうすんだこらー!」
「オス! まずは砂糖を鍋に入れて弱火にかけて木べらで回します!」
「つづけろこらー!」
「オス! 飴色になったら酒を入れてよく混ぜます!」
「さきを急げこらー!」
「オス! 醤油と沸騰したお湯、切った豚肉を入れます!」
「もっと飛ばせこらー!」
「オス! 落とし蓋をして一時間煮込みます!」
「時間かかるなこらー!」
「オス! 休日の夕方に作るといいと思います!」
「待ってるあいだ暇だなこらー!」
「オス! 酒でも呑んで待つのがいいと思います!」
 待ってましたとばかりに酒隊が走り寄ってきて、みんなでヨイトマケの唄を歌った。
 
「一時間経ったかこらー!」
「オス!」
「こっから飛ばすぞこらー! イモ引くなよこらー!」
「オス!」
「落とし蓋すてろこらー!」
「オス!」
「強火で一気に煮詰めろこらー! 鑑別上等だこらー!」
「オス!」
「2リットルが300mlくらいになるまで煮詰めるぞこらー!」
「オス!」
「鍋底焦がすなよこらー!」
「オス!」
 
「出来たぞこらー!」
「オス!」
 

 まじで激ウマだぞこらー! 作れこらー!
 
 
※以下はイメージです。
 
 極悪伝説

 お前らセキセイインコかこらー!