ばかの見本

  
 深夜、一時
 
 雨が降っている
 
 ただでさえ臭い
 
 雨に濡れた野良犬たちは
 
 腐ったトンコツスープさながらで
 
 それをも呑み干す野良犬魂
 
 感謝する
 
 恵みよりも
 
 胃の鋼鉄に
 
 その言葉の胡散臭さを
 
 もろともしない鈍い感性に
 
 タクシーのドアが閉って
 
 階段を駆け上るホステスの息が切れている
 
 乱暴にストッキングを脱いで
 
 お湯を沸かす
 
 北島三郎と浮世絵
 
 ホステスが消え失せたススキノでは
 
 四十二歳の男が顔に傷をつくっている
 
 甘い汁を吸ってきた男が
 
 苦虫を噛み潰したような顔をして
 
 それともそうしたかったのか
 
 そういう顔をしている
 
 四十二歳の男たちが顔に傷をつくっている
 
 小学生のパンチパーマみたいに
 
 不自然でばかばかしい
 
 あと八年後
 
 できれば彼らのようなばかになりたい