偏愛の理由
チョコレートはあまり食べませんが、不二家のLOOKを掻き混ぜてから味当てクイズを独りでするのが趣味のですこです。
夕刻、労働で疲れ果てた体を引きずっての帰り道、急に空が明るくなり、頬に温もりを感じた。なにごとかと空を見上げると、西の空が異様に紅くなっていた。雲の形も妙で、それが光媒体となって空全体を不自然に明るくしていた。
携帯で撮ってみた。近くのおじさんも同じく携帯で撮影していた。お前のハゲ頭のほうがよっぽどまぶしいわい、このフラッシュいらずめ、常時ISO80め――以上、未来の自分へ。
これ、もしかして地震雲ですか! 携帯画像なので伝わらないでしょうけど、ちょっとまれに見る空模様でしたねぇ。綺麗というより異様でした。まじで地震雲かもしれないぞ! 不意に起こった災害時、最も大切な物は〈靴〉だと聞いております。大地震が起きてパニックに陥ったとき、大抵はガラスの破片などで足の裏を損傷して身動きがとれなくなるそうです。
ですからぼくも今夜は枕元に靴を置いて、5kgの米袋を抱き枕にし、鯖の水煮の缶詰を握り締めつつ股ぐらになめたけの小瓶を挟み、肛門にはパスタ一人前を、陰部にはローリエを被せて床につこうかと思っています、って眠れるかーい! どうですか、このノリツッコミ。盗めるところがあれば盗んだって構いません。但し、現実の泥棒と同じで能力のない人には大したものが盗めるわけがありません。なにより、ぼくの文章は空き家に等しいので価値のあるものは皆無だということは、今さら言うまでもありません。
最近、或るメルマガを購読しています。購読といっても配信登録すれば無料で読めるものです。メルマガといえば、大抵の場合はスパムに等しい、まったくお買い得じゃないショップ情報等ですし、購読者が多いものは著名人が配信しているもの、あるいは素人女性を装ったアダルト系のものでしょう。
ぼくが購読しているのは、まったく見ず知らずの人が配信しているもので、購読者は約三十人、内容は『三十代後半の求職日記』と言うべきものです。これが下手な小説よりも面白くて、ぼくは毎日配信が楽しみで仕方がありません。小説風ではなく、今日あった出来事を数行程度の短い文章で述べているだけなんですが、面白いんです。
ぼくもかつてメルマガを配信していたことがありますが、ブログとは違って“こちらから送りつけるもの”なので、けっこう気を遣うんです。ブログのように「文句あるなら見るな」とも言えないわけで、かといって「じゃあ配信解除しろ」と言ってしまうと成り立ちませんしね。
そうなると頭を使わないとうまくいきません。件名やツカミも重要で、いかにして最後まで読ませるかが大変なのです。あまり作為的だと読者は必ず嫌になります。たぶん創作物というものは自ら進んで読むべきものであって、送りつけられるとイラっとするんです。勝手ですよね。
で、タイミングよく、そのときぼくは淋病に罹ってしまったんです。ですから、発症してからを小出しにメルマガで配信しました。最初はこうです。
こんばんは、ですこです。さっき、お風呂に入ろうと思ってパンツを脱いだら糸を引きました。怖いのでもう寝ます。
次はこうです。
おはようございます、ですこです。おしっこをするとき、尿道が灼けるように熱いです。どうやらなにか性病を伝染されたようです。常に腰を屈んだ状態です。ではお仕事いってきます。
続けます。
こんにちは、田植えですこです。知らないあいだに尿道からなにかが出てくるようになりました。たぶん淋病というやつです。たしかに、なんだが淋しい。
続けます。
こんばんは、ですこです。帰宅しました。排尿が怖いです。このまま踊ればリンビョーダンス、なんつって。おやすみなさい、いい膿みてね☆
続きます。
おはよう。今朝、泌尿器科へ行ってきました。なぜか先生に小突かれました。お尻に注射を打たれました。肛門科も兼ねている病院なので、持病の痔がバレないようにお尻の両頬を引き締めました。お尻の方はなんとかバレずに済みました。
数時間後。
早くも奇蹟が起こりました。抗生物質は神です! トロミのない普通のおしっこがでました! お尻万歳!
と、このようなドキュメントの配信後、購読者がグンと増えたのです。配信元へのメッセージ等は送れないのですが、察するに購読者たちは楽しんでいただろうと思います。実際そういう意見も聞きました。
現在ぼくが購読しているメルマガも、苦境に立っている赤裸々な独白ゆえに、面白いんです。彼の就職が決まったのなら「おめでとう!」とメッセージを送りたいけれど、それができない歯痒さもまた、メルマガの良いところだと思います。頑張れ! 応援してるぞ! それ以上に楽しんでるけど!
いいなぁ、メルマガ。面白いなぁ、メルマガ。ぼくもまたやろうかなぁ。
日々、ニコ動で『初音ミク』を観ています(聴いています)。おそらくはDTM史上、最も売れたソフトかもしれません。ぼくはね、単純に嬉しいんですよ。ズブの素人がパソコンの前に座ってポチポチと音楽を創っている様子が目に浮かんで、微笑ましくていいじゃないかと、素敵じゃないかと思います。
これ、革命ですよ。キーやBPMが管理されたサンプルCDを切り貼りして“それっぽい音楽”を制作するよりも、“ミクに唄わせたい情熱”のほうがよっぽとクリエイティブですよ。バカにしちゃいけないよ、初期衝動を、ミク衝動を。ここからなにか新しい音楽が絶対に生まれますよ。テコ入れって、野蛮の血を入れることですからね。活性化ですね。
たまには音楽の話。
ぼくがアンテナを張ってるミュージシャンは国内なら『キリンジ』、アメリカは『WEEN』、イギリスは『THE HIGH LLAMAS』、これはポップサイドの話であって、他にもぼくの中で重要なミュージシャンが三組います。
アメリカは『THINKING FELLERS UNION LOCAL 282』と『UI』。イギリスは『Stock, Housen & Walkman』です。
ぼくはこれらのCDを見つけ次第、即買いしますし、ほとんどのショップでは取り扱っていないので、ヤフオクのアラートに入れて虎視眈々と狙っています。
彼ら三組に共通することは、『おバカである』ということと、『時代感覚が優れている』ことと、『アルバムに一曲は珠玉の名曲がある』ことです。とりわけ最後の項目が重要なのですが、特にUIとStock, Housen & Walkmanはジャケのアートワークが素晴らしい。
一見ふるくさいコラージュに見えるかもしれませんが、音楽と完全にリンクしているのです。とくにUIのジャケを手がけている⇒Jim Gallagher(James Gallagher)は、右下のダダ人形を思わせる絵がめちゃくちゃにかっこよくて、たぶんハンナ・ヘッヒの影響を受けているだろうことは彼のサイトを見れば明らかです。
え? ⇒THINKING FELLERS UNION LOCAL 282のアートワーク? うん、彼らはバカだから。
「どんなバンド演りたい?」と訊かれたら、ぼくは迷わずこう答える。
「TFUL282みたいなバンドさ」