現代のブルースかもしれない

 
 カイリー・ミノーグと一発やりたいですこです。嘘。八発です。
 
 初音ミクの勢いや止まらず、毎日のようにオリジナル曲がうp(←古い?)されるという、凄まじい情況になっています。たかが一万五千円のソフトが、これだけの数のオリジナルコンテンツ制作を誘発した現象って、いまだかつてあったのかしら?
 こまめに新曲をチェックしてますが、良いのは全体の二割くらいで、めちゃくちゃにクオリティが高い。これは在野の音楽クリエイターがいかに多いかを顕しているわけで、宅録をやったことがある人ならわかると思うんだけど、自分で作ったオケを他人に唄わせるのって結構なストレスなんですよね。ですから、唄ってくれるシンガーを妄想するんです――「この曲はディオンヌ・ワーウィックで決まり。あの曲は、そうだな、吉田美奈子、いやまてよ、エディ・リーダーか」
 こういう妄想をしてる人って、もの凄く多いと思うな。冨田恵一も「ぼくはアルバム毎になりきりますね。これはジョン・サイモン、あれはテッド・テンプルマンといった具合に」と発言していました。
 ミク現象を「だったらシンガー探せよ」と批判するのはよくないことで、実際のところ、たとえば男女のユニットだとして男がプロデュース、女がシンガーという体裁は掃いて捨てるほどいますけど、やっぱり八割はゴミなんですよ。雰囲気に堕していて、肝心な音楽がうんこみたいな輩はほんとうに多いんです。で、顔だけはやたらと広くて合い言葉は「おいっすぅ〜」、もしくは「おつかれっし〜」(言わねーよ)。そのうち、百均で揃えた食器を掻き集めて、住宅街で定食屋兼居酒屋を始める。品書きはロハスブームに便乗したオーガニックなものが主体で、「オクラと納豆と山芋のトロトロスタミナ丼」といった具合で、お値段千二百円也、ちなみにスープはマギーブイヨン、ってやかましいわい。
 そう考えますと、ミクユーザーはまったく健全だ、と言わざるを得ません。ヘッドフォンで聴くと、がっちりと作り込んでるのがよくわかる。ミクの登場によって、シンガー探しの軋轢から逃れられた在野の人たちに、一気に火がついたわけです。
 ぼくがハマったアニソンといえば、岩崎良美の『タッチ』か、ホワッツマイケルの山瀬まみ、もしくはひょっこりひょうたん島前川陽子くらいなので、最近のアニソン事情には疎いんですが、あれですね、ドナ・サマーというかカイリー・ミノーグというか、ユーロビートの影響が強いですね。
 四つ拍ちポップスの元祖といえば、個人的には『BOYS TOWN GANG』のCan't Take My Eyes Off Youを第一に挙げたいんだけど、これは日本でも爆発的に売れて、たぶん日本人って潜在的にこういう曲が好きなんでしょうね。ぼくも大好きな曲です。彼らのアルバムをLP(!)で所有していますが、楽曲を提供している布陣が凄くて、スティービー・ワンダーにシルベスタ・スチュワート(スライ・ストーンの本名)という本気っぷりが窺えます。
 こうして辿っていくと、アニソンにもブラック・ミュージックが浸透していて、ぼくはヘッドフォンをしながらニヤニヤしています。
 100万PVを誇るオリジナルソングの制作者が一円も得ていないことを、嘆くべきか、喜ぶべきか。対価としてたったの十円すら支払うこともできないこのもどかしさを、一体どうしてくれようか。
 金銭を得ていないという意味では、経済に取り込まれている自称純文学なんかはケツにできたデキモノで、彼らこそ〈純音楽〉と呼ぶに値するだろう。