川の流れのように

 
 ドラえもんを知らないのび太、ですこです。翻訳コンニャクは人肌に温めました。
 
 昼時、母親から電話がくる。ギクッとする。おそるおそる受話ボタンを押すと、「寒くて寝られないから電気毛布買ってこいガチャ」というジャイアンテレホンだった。
 確かにここ数日から急に冷え込み始め、明日には初雪が降るようだ。
 終業午後六時、面会時間は七時まで、時間がない。急いで着替えて車に乗り込み、国道二三〇に出て北五条を目指し北上する。この時間帯は混んでおり、流れが悪い。普段はまったり運転するぼくも、仕方なく車線変更を繰り返しグングン進む。最高速度こそ遅いものの、車体が軽いので街中でのスタートダッシュはなかなかに速いんである。割り込みのコツは、割り込んだ直後にアクセルを強く踏んで前の車にギリギリまで接近することだ。そうすればアラ不思議、割り込まれてもまったく腹が立たない。「チッ、巧いじゃねえか」と畏敬の念すら覚える。マメにウインカーを点けながらスイスイ進む車なんかは見ていて清々しい。いちばん腹が立つのが割り込んでおきながらトロトロ走るやつで、おまえはいったい何のために割り込んで来たのか、と小一時間乳首を突いて問いつめたくなる。
 車間距離が短いと事故を懸念する人がいるが、それは間違いである。追突事故のほとんどは、適度な車間距離を保っているがために生ずる緊張感の無さがブレーキの遅れを誘発し、事故を起こすんである。よい意味で緊張していれば、事故とは無縁の一生を送れるだろう。ちなみに寿命七十歳として日本人が交通事故で死亡する確率は1/133、とめちゃくちゃに高いことをお知らせしておきます。モータリゼーションの進化と共に人間も進化できればいいんだけどそれは無理な話なので、せめて“殺人兵器になりうる”という自覚をドライバーは持たなければならないでしょう。
 交通弱者の歩行者を優先することは当然として、オートバイや自転車も優先するべきである。それらに乗ったことがない自動車ドライバーの運転がとても冷酷に見えることがままある。
 以前、ミラーで確認していなかったのか、それとも意図的に幅寄せしたのか、急に無理な車線変更をしてオートバイと接触しそうになったおやじがいて、オートバイの若者に呼び止められていた。
 若者はオートバイを降りてツカツカと車に向かい、おやじは窓を開けて、口論になっている。すると若者がおやじの顔面にパンチを入れて、鍵を抜き取って遠くへブン投げた。かなりいい肩で、鍵は百メートル先に飛んで行った。
 これはやりすぎとしても、弱者が強者に一泡噴かせたという意味ではスカッとした。
 エンジンが止まれば結局は人間 VS 人間なので、交通強者だからといって図に乗っているといつか痛い目に遭うぞ、という好サンプルである。
 
 駐車場に停めてビックカメラへ小走りで向かう。四階に行って電気毛布を購入し、エスカレーターを駆け下りて、総合サービスセンターで駐車チケットを貰い、INFOBAR2のモックをニギニギしてみる。うーん、欲しいかも。
 デジカメコーナーを通り過ぎようとすると、NIKON COOLPIX P5100がやたらと安かったのでニギニギしてみる。いいカメラだ。うーん、欲しいかも。でもGX100の広角に慣れちゃと物足りないな。
 広角といえば魚眼なので、ショーケースの一眼レンズを物色するもあまりの高さに鼻血が出る。おいおい、D80本体買えるぞ。
 時計を見れば六時四十分、時間がない、急がなきゃ。
 
 石狩街道に出て終焉のカーブから川沿いの道をひた走る。河の流れに促されているのか、この通りはいつも流れがいい。
 病院に到着すると七時を過ぎていた。守衛のおじさんに「いいですか?」と訊くと、「どうぞどうぞ」と。
 階段を駆け上がり、二階の病室のカーテンをちょっと大袈裟に開けて、母の背中に「買ってきたぜ!」と声をかける。
 すると母は、目尻でぼくを捕らえたまま「あー、やっぱ要らないわ」と。
 工工エエエ(´Д`;)エエエ工工
 
 聞けば低温火傷のおそれがあるので、病院では電気毛布の使用を認めていないとのことだった。
 母はニヤニヤしながら手招きでぼくを呼び寄せて、耳打ちした。
「あのね、Kが離婚するんだって、ウフフフ」
 ぼくは少し混乱した。Kとは母の妹、ぼくの叔母だ。足繁くお見舞いに来てくれている。
「冗談だろ?」
「いやホント、ウフフフ」
 母はなぜか楽しそうだ。いたずら好きの子供みたいな顔をしている。
「それでね、実家にKが住むことになったから、よろしくね。ウフフフ」
 工工エエエ(´Д`;)エエエ工工
 
 
 おいおい、なんだこいつら。