続・作曲考

 
 ミスター都市伝説こと、ちよしくんから作曲についての問い合わせがありました。
 本来ならばメールで返信するところなのですが、前回は作曲について書いたので、今回も日記で書こうと思います。
 もしかしたら誰かの役に立つかもしれません。
 そうそう、どうしてちよしくんが都市伝説なのかというと、股間ツチノコを飼っているからです。もの凄く獰猛ですので、みなさん気をつけて下さい。黒いので、特に闇討ちにご注意下さい。
 
 では、本人に無断でメールを転載します。
 

ちょっと疑問
ここんんとこ3コードの勉強をしつつ曲作成に取り組んでる んだけどさ。
結構理解できてきたつもりなんだけど、次の曲が解らない。
Key:Dの曲です
G-A/F#m7-Bm/Em-A/Dmaj7-D7/G-A/F#m7-Bm/Em-A/D(Aメロ8章節)
Dのメジャースケール(?)って
D−Em−Fm−G−A−Bm−Cm(dimだの-5だの)でしょ?
I−?m−?m−?−?−?m−?mでさ
代理コードでI7=?m7とかさ
でねこの曲みたく F#m7とか『#』が出てくるのが良くわからなくて
このF#m7(?m7)も何かの代理コードなのかな?
例えばKey:Eの時は?m7のGm7はG#m7でも可とか?
でもルート変わるから変だなとか・・・
あ、意味わかる?もっとも3コードの枠で考えるからそう思うんだろうけど
Key:Dでどの音の#とか♭に出来るってもんじゃないよね?
他のKeyでも同様なんだろうけどさ

何故そう思うかと云うと
Key:Gで作るときG-C-Dで考えてってさ
G/C/D/G→G-Em7/C/D7/Gとか変えてってやってみてたりしてんだけど
ここで#とか使えるならまた変わるでしょ?幅が広がるっていうか?

なんとかご教示を

ツチノコオーナーより


 
 全角ローマ数字がブラウザによって文字化けしているのは、ちよしくんのせいです。
 ローマ数字を表す場合は半角英大文字の「I」「V」「X」を使うとよろしいかと思います。
 
 では順に答えていきましょう。
 先に申し上げておきますが、ぼくは音楽の勉強を一切したことがありません。大昔に作曲法の本を買ったことがありますが、全く役に立ちませんでした。
 それからは先人たちの曲を耳コピすることに明け暮れて、テープデッキやCDプレイヤーを5台は潰しています。
 ですから、まったくの独学であり、今日の内容は曲解の嵐かもしれません。
 けれど、ぼくにとっては音源こそが最高の教科書でありました。
「この曲はどうしてこんなに良いのだろう?」と思うと、すかさずギターを抱えて解析しました。
 その秘密がわかったとき、頭ん中が水浸しになるような悦楽に浸りました。
 もっとも、「極めて数学的であるにもかかわらず、どうして音楽には情念が宿るのか?」という疑問への答えは、いまだに見つかっていません。
 
>ちょっと疑問
 
 ういっす
 
>ここんんとこ3コードの勉強をしつつ曲作成に取り組んでるんだけどさ。
 
 おつかれっす……ってそこから逐一答えるのは面倒なので要点を絞ります。
 
>Key:Dの曲です
 G-A/F#m7-Bm/Em-A/Dmaj7-D7/G-A/F#m7-Bm/Em-A/D(Aメロ8章節)
 
 ギターで弾いてみました。よくあるパターンですね。
 おそらくシンコーペーションでコードチェンジしてるのかな?
 最後のD7は常套句ですが、AをA7にしたり、F#m7をF#7にするとまた雰囲気が変わります。
 また、BmをB7に変えてもいいのですが、その場合の直前はF#m(7)でなければ曲が破綻してしまうでしょう。
 これはF#7に変えるときも同じで、その直後はBmでなければなりません。
 なぜそうなのかと訊かれても、論理的に説明することは、ぼくにはできません。
 もしここで新たな展開を作るとすれば、G-A#dim/Bm7-E7というのも面白いです。一度弾いてみて下さい。dimはローコードで弾いて下さい。
 
>Dのメジャースケール(?)って D−Em−Fm−G−A−Bm−Cm(dimだの-5だの)でしょ?
 
 いきなりで申しわけないんですが、ぼくはスケールをよく理解していません。
 体では解ってるんですが、理論としてはよくわかりません。
 もちろん知っていてもいいのですが、作曲に関して言えば知らなくても大丈夫です。
 
>I-IIm-IIIm-IV-V-VIm-VIImでさ
 
 おっ! ディグリー!
 
>代理コードでI7=IIIm7とかさ
 
 代理コードとは類似コードを指すので、IIIm7ではなくVIm7です。
 つまりキーがDなら、代理コードはBm7となりましょう。
 ローコードで弾いてみて下さい。ルート音以外はほぼ同じでしょ?
 
>でねこの曲みたく、F#m7とか『#』が出てくるのが良くわからなくて、このF#m7(?m7)も何かの代理コードなのかな?
 
 なんでF#があるのかと言うと、Eの後のFは半音しか上がっていないからです。
 ディグリーに#の表記がないのは、キーを主体として全て一音未満では変化しないからです。
 あー、ややこしい。
 あのですね、キーがDの場合、F(m7)は使いません(前衛音楽では使いますが)。なぜなら、FはDに対して奇数(半音)だからです。
 けれど、たとえばDとFを繰り返してアップテンポで掻き鳴らしてみて下さい。
 どうです? ロンドンパンクの匂いがしませんか?
 
>例えばKey:Eの時は?m7のGm7はG#m7でも可とか?でもルート変わるから変だなとか・・・
 
 違います。
 Eの三度上はG#です。邪魔くさいFの野郎がいますから。G#m7は頻発します。
 
>あ、意味わかる? もっとも3コードの枠で考えるからそう思うんだろうけど、Key:Dでどの音の#とか♭に出来るってもんじゃないよね? 他のKeyでも同様なんだろうけどさ。
 
 うん、わかりました。
 ツチノ……いや、ちよしくんは度数を理解していませんね。
 #も♭も、ただの記号なのです。
 でもその疑問、よーくわかります。ぼくもそうでした。
 
>何故そう思うかと云うと、Key:Gで作るときG-C-Dで考えてってさ。G/C/D/G→G-Em7/C/D7/Gとか変えてってやってみてたりしてんだけど、ここで#とか使えるならまた変わるでしょ?幅が広がるっていうか?
 
 そうですね、広がります。じゃあ#を入れてみましょう――と言いたいところですが、#の付くコードは使えませんねぇ。dimなら使えますが、あれは接続コードですから。
 ですから、キーを一音下げてFに変えてみて下さい。どうです? たくさん#が付いたでしょう?
 そしてそれをディグリーに起こしてみて下さい。ディグリーに#が存在しない理由がわかるはずです。
 
 では実践してみましょう。
 ちよしくんはギターを抱えながら読んで下さい。
 ぼくが作った曲のコード進行を、記しておきます。
 この曲のキーはGで、いくつかのコードには#が付いています。
 
 スローテンポで、キーはGです。
 

 G-G6/C#dim-/C-D/G
 G-G6/C#dim-/C-D/G-G9

 CM7/Bm7/A#6-Am7/D7-G7

 Em7/Edim/Em7/Edim
 Bm7/A#6-A#dim/Am7/Am7/B

 Em7-A7/D7-G
 G9(?コードネーム不明)-A#dim/Cm7-G
 
 ちょっと難解ですが、弾いてみて下さい。
 Gキーで#が付いているのは、少し特殊なコードで、接続的に使います。
 ちょっと違和感があるはずですが、ちゃんとトンボ返りはしています。
 こうして文字で書いても伝わらないので、時間があれば録音してうpしてみます。
 
 作曲はスリーコードから始まりますが、いつか7thの違和感に気づきます。
 そしてそれがどんどんとクセになってきて、他のコードを探し始めます。
 そうして気持ちの良い違和感を追い求め、逸脱し、かろうじてバランスを保っているのがJAZZだ、とぼくは思っています。
 コードにおける違和感と、発酵食品はよく似ています。最初はおえっぷとなりますが、いつしかそれなしではいられなくなるのです。
 でもこちらは作る側です。朝定食のお盆から納豆を抜いたって構いません。それはそれで良いものです。
 これはまったくの独断ですが、シンプルな曲は、メロディがコードを引っ張って行きます。
 複雑な曲は、コードがメロディを運んで行きます。
 
 さてさて、太チ……いや、ちよしくんは一体どんな曲を聴かせてくれるのでしょうか。
 とても愉しみですし、たぶんぼくは、それを聴いて笑いを堪えるでしょう――嘘です。
 ちよしくんが作った曲は、世界にひとつしかないのです。
 それだけで価値があるということに、そろそろ気づかなければなりません。
 時には誰かに鼻で嗤われるかもしれません。
 それでいいんです。
 誰かに張り倒されとしても、歌い続けることが“唄”なんです。
 それは、ちよしくんだけの唄です。
 すでに仲間がいて、なにか足りないのならば、それは唄です。
 いまでも仲間がいないのなら、足りないのは、やはり唄でしょう。
 人は人の唄に集まるのです。