テルミー日記

 
 部屋が散らかっている。空き巣の後のように。
 片づければいいのだが、片づけたところで数時間もすればまた散らかってしまうので、まったくやる気が出ない。
 なぜ散らかるのかといえば、出した物をしまわないからだ。けれど、仮に仕舞ったとしても、もう一度取り出すわけで、そのロスタイムが勿体ない。もしお目当ての物が、片づけたことによって瞬時に発見できなかったとすれば、もう目も当てられない。
 つまり、この散らかった状態は必然であり、片づけた状態の方がおかしいと言える。不必要な物は何ひとつ散らばっていないし、猥雑ながらも黄金比を保っている。
 なにが言いたいのかというと、「レンゲでミニラーメンを作るな」ということだ。
 
 テルミンminiのカスタムを終える(フォーンジャック増設)。
 正直、ぼくは自分のことを器用な奴だと思っていたが、あまりの不器用さに怒り心頭し、ラジオペンチで生爪を引き抜こうかと考えた。
 穴空けドリルの真裏に指を当てていたせいで指にも穴を空け、半田ゴテでちゃぶ台を焦がし、プラスティックの筐体を溶かし、試しにコテで煙草に火を点けてみたら溶けた半田の悪臭を肺に入れて咽せ返り、その勢いでお茶をこぼしてしまい、飛び散った小ネジを小一時間探していると半田ゴテが足の甲に落下し、見づらいのでクリップ式のスポットライトを当てたはいいが、間近で煌々と光る60ワットのレフランプの発熱たるや凄まじく、指先に滲んだ汗のせいでピリリと感電してしまい、「電池抜いとけやぁ!」と独り言を発して、なんだか腹が減ったので一向に減る気配のない冷凍食品の“ちくわの磯辺揚げ”をレンジで温めていると、ブレーカーが落ちた。泣きっ面に暗闇である。
 こういう時、人間は、力無く、笑う。エヘラエヘラのケレラセラ。
 
 VOXのミニアンプは変な外人にあげてしまったので、寝室で落語用に使っているBOSEのアクティブスピーカーで動作確認をする。
 拝むようにジャックを挿すと(付属のミニスピーカーは既に半田ゴテで“焼き殺してしまった”のだ!)、鳴った。
 ミョンミョン遊んでいると、テルミンがバイオリンに近いことに気づく。でもこのテルミンminiはヴォリーム調整ができないので、スライドギターに近い。
「音を小さくするならスピーカーを手で塞いじゃえばいい」とやってみると、ワウワウ効果も同時に生まれた。だったらワウを咬ませてみよう、とやってみると“完全に唄い始めた”。ならばファズ、トレモロ、コーラス、と様々なエフェクターを繋いでみると、ほとんどシンセサイザーに成り上がった。
 ほらね! ね! ね?! 部屋が散らかっていると即座に実験ができるんだ!(自慢することかよ)
 
 アンテナまでの距離は目で追うんだけど、テルミンは目視できない楽器だね。戦前ブルースマンには盲目のスライドギターの名手が沢山いたけど(巧い人は大抵盲目だった)、その感覚にとても近い。だからおそらく、目を瞑って演奏すれば上達が早いかもな。なまじ見えてしまうと、その不要な情報量に阻害されてしまう側面が、この楽器にはあると思う。十二音階から逸脱するためには、そうするのがいいかも。
 ちなみに、誌面に載っていた国産初のシンセサイザーRoland SH-1000」、じつはわたくし持ってるんです。欲しい人いたら、格安で売ります。まじです。めちゃくちゃ重たいんです、昔のシンセってば。
 
 
 映画『ルワンダの涙』を観る。
 ツチ族フツ族の争いを描いた映画だが、双方に“ツ”が付く民族名と、見た目はほとんど変わらない両者を見て、大いに混乱する。
 なぜ争っているのかは、ぼくには理解できなかった。対岸の火事よりも遠い、別大陸の出来事なので、理解に苦しむのも当然だ。
 それを理解するためには大きな普遍性が必要なんだけど、それはたぶん宗教だろう。この映画でも、クライマックスは神父の死だった。つまり“愛”ということで、それはやっぱり、とても漠然としているものだった。
 
 宗教論を書くつもりはないが、こんな話がある。

或る神父が、教えを説くべく遠い僻地に赴いた。
そこは人食い人種の村で、神父は争いをやめるように何度も説得したが、一向に通じない。
神父が喰われずに済んだのは、その情熱のためか、あるいは、肌の色が違うので「こいつは喰っても不味いかも」と敬遠されたのかもしれない。
さんざん説いても、人食い族は納得しない。しかし、徐々に話が通じてきたのか、人食いの頻度は減少した。
神父はひとつ提案をした。
「明日の午後、全身に赤い布をまとった人がここを通るだろう。それを最後に人を食べるのはやめろ」
人食い族は頷いた。
彼らは最後の御馳走を襲った。それは、赤い布を纏った神父だった。
以来、人食い族はいなくなった。


 
 これは、ハッキリした話で面白い。
 あまたの教典に書かれている奇跡は、この話の『以来、人食い族はいなくなった』という部分だけを抜粋しているのかもしれない。
 ぼくはですね、宗教云々よりも、奇跡を信じないんですよ。もっと言えば、信仰心に奇跡は必要ない、ってことです。無論、祈りを否定するものではありません。
 
 
 映画『太陽を盗んだ男』を観る。
 まず、タイトルが秀逸だ。これは惹かれる。
 一介の科学の教師が自力で原子爆弾を作って国家権力を脅迫する、という映画だ。
 最後まで痛快な映画だが、唯一の被爆国である自国を同じ方法でおびやかす、というシニカルな視点もある。
 主演のジュリーはめちゃくちゃにカッコイイし、文太のダミ声もシブイ、シブ過ぎる。
 エンディングで流れたビートルズ風のインストがとても良かった。誰の曲なんだろう?
 ギターを取り出してコードを採譜しようと試みたが、ギターがオープンチューニングになっていたので、心底萎えた。
 
 
 久し振りに同じ本を2冊買ってしまう。

 誰か、あげます。ぼくの家の窓の下で「タンタン!」と舌を鳴らして下さい。ぼくはそっと窓を開けて、なるべく遠くの方に本をブン投げますので、あなたは四つん這いで「ワンワン!」と吠えながら、その本を口にくわえ、左前足を巧みに使いながら読めばいいんだよコンチクショウ!
 Amazonさん、カートの個数が“2”のときは、確認のジャバスクリプトというのかな、何かアクションを下さいませんか。最先端のプログラムでよぉ、頼みますよ。いや、なんなら電話でもいいですわ。通話料はぼくが負担しますから! ねぇ! お願い! ヤッて! こんなアタイだけど、お願い! アタイをヤッて!
 
 
 これ、面白かった。
 噂に違わず、凄かった。まじでヤバイぞ皇室ネタ。寄席のCD付きです。
 

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 さてと、テルミンからケーブル引っこ抜いて落語でも聞きましょうかねぇ。