わたしはゴリラの子孫である

 
 飛行機の燃料が灯油であることを、この歳になって初めて知る。
 そうなると、少し拍子抜けしてしまい「灯油のクセしやがって運賃高ぇだろ!」と思ってしまう。ただのでっかいストーブじゃねえか、と。
 離陸の瞬間が好きだ。ニヤけてしまう。時速300kmくらいなのかな。SUZUKIのハヤブサでも乗れば体感できるなぁ。
 スピードは快感だ。潜在的な自己破壊衝動が満たされているのかもしれない。
 
 近所で老人を轢きそうになる。
 界隈は老人と若者が多い。「当たり前だろ!」とツッコまれそうだが、「昼に集中して多い」のだ。
 年金あるいは生活保護で暮らしている老人と、夜のお仕事をしている若者たちが目立つ。普通は昼間の住宅街は静かだが、そういう事情でこの辺りの昼間はけっこう賑やなのだ。
 頻繁に老人が道路に飛び出してくるので、今回も焦ることはなかった。「あ、来るな?」と解るのだ。
 超能力ではなく、道路を挟んだところに婆さんが居たからだ。案の定、ババアを見つけたジジイが赤ら顔で飛び出してきたというわけ。
 あとは、中国人もよく飛び出してくる。というか、当たりにくる。
 運転が苦手なそこのアナタ。我が家の界隈を走れば『かもしれない運転』を極めることができるだろう。飛び出し頻度は、教習所のシュミレーターの10倍はある。
 
 取れたボタンを縫う。なぜか正座で、縫う。
 由利徹と自分を重ねて苦笑する。地味だ、地味すぎる。
 裁縫関係はすべて母に任せっきりだったので、針と糸を持つのは実に20年振り、家庭科の授業以来だ。
 縫い終わった後の玉結びの作り方を、どうしても思い出せない。ネットの図解を見てもイマイチよくわからない。
 検索しているうちに、動画を発見した。嬉々として再生すると、いいところで切れていたので、思わず「おいおい!」とツッコんでおく。
 仕方ないのでグルグル巻きにしておく。
 
 映画『テルミン』を観る。
 プロの演奏は凄い。凄いけど、あんまし面白くない。それはたぶん、すべての曲がスローテンポだからだろう。
 モーグ博士の出演に感動する。にしてもmoogは高過ぎだ。
 
 マジカル・パワー・マコを聴き込む。
 もっとフザケタ音楽かと思っていたんだけど、これね、イイぜ。ぼくが偏愛している『Stock, Hausen & Walkman』にかなり近い。
 これが1974年に、それも18歳の少年が創ったというのは、まじで凄い。20年先を行ってる。
 だからって、これを真似すると、まじで寒い。自称前衛音楽家はそんなのが多くて、本当に厭になる。
 未来だよ、未来。20年先の音楽を。暗闇の中に射し込む一筋の光で刺青を。
 
 ハンダ付けの特訓をする。
 工具を揃えたのは、テルミンのためだけじゃない。ギターを自力で改造するんである。
 フレット交換とPUを含む電装系の一新をプロに頼むと、10万円を越えてしまう。ちょっと追い金すればそこそこの中古を買えてしまう金額だ。
 だから、フレットはプロに頼んで(安いところ見つけちゃった!)、電装系は自力でやることにした。それに、電装と言ったって超微弱電流なので、素人でもいけるはずだ。
 なにより、全てのパーツを吟味できるところが良い。PUはP-90、コンデンサはブラックビューティー、ボットをプッシュプルにして瞬時に位相を変えられるようにし、ノブはアンバーのスピードタイプ等々、夢が広がる。
 そうしてネットで調べ上げていると、途轍もないサイトを発見した。
 ⇒ STORK GUITAR LABO
 なんとこの管理人さん、趣味で一からギターを造っている。凄すぎるぜ……。しかもそこいらのプロよりも、抜群に見やすいサイトだ。こりゃカネ取れるぜ……。
 このサイトを見ちゃうと、自称プロが胡散臭く見えるぜ……。
 自称って怖い。
 
 血液型の本が流行っているらしい。それもB型のみの本が。
 じつはこの本、母が持っていたので(なぜだ!)、チラ読みしたことがある。
 ぼくが血液型診断に懐疑的なのは、自分の血液型を知ったのが30歳のときだからだ。
 キッカケは、腰を痛めてしまい整形外科へ行ったときに採血されたので「あのう、ついでに血液型も調べて下さい」と言ったことだった。
 医者は「はい?」と訊き返してきたので、「血液型です」と念を押すと、「はぁ」と言って部屋を出て行った。
 代わりに入って来たのは三十代くらいの女性看護士で、彼女はめくり上げたぼくの腕を見るやいなや「いやーん、太いですねー」と言った。すでに瞳が欲求不満、見るからにヤリマン、完全なニンフォマニアだった(言い過ぎだろ)。
 看護婦出身、あるいは現役の掛け持ちでのAV女優は、かなり多いと聞く。これは、なにも彼女たちに先天的な奉仕の精神が宿っているわけじゃない。
 幼い頃に優しくしてくれた看護婦に憧れて、成ったはいいが、医療の世界もまたドス黒かったのだ。
 あるいは激務による疲弊、そして単調な毎日に嫌気がさしたのも、その理由らしい。
 男性諸君なら知っているだろう。キャバ嬢には看護婦とか公務員の掛け持ちをしてる女性がめちゃくちゃ多いってことを。そして、彼女たちはもれなく異常な散財家であることを。
 何の話だっけ。あー、血液型ね。
 母に尋ねても「アンタはBかOだよ。じゃなきゃ……ぐふふふ」と意味深に返された幼少期は密かにショックを受けていたが、誰もが「お前は絶対にB型だ」と言うので、「へぇーそうなんだー」というスタンスでずっと生きてきた。自分の血液型が判らないんだから、血液型診断に興味の持ちようがないのだ。
 まぁ、ぼくはB型だったんだけど、いつか姉にそれを報告すると「キャーッ! やっぱり!」と狂喜している。姉もまたB型で、金切り声のニュアンスには「お前もコッチ来いやぁ!」という、どこかネガティブな匂いがあった。
 以下は、三十年間自分の血液型を知らなかった人間だから言えることだ。
 よく「B型は自己中心的だ」と言われるが、それはまったくの間違いだ。身も蓋もない言い方だが、ぼくの周りにいるB型以外の人間は、もれなく全員“自己中心的な人間だ”と断言できる。みんな凄まじい自己中だ。
 無論ぼくも自己中だが、彼らほどではないし、誰よりも気配りができると自負しているし、彼らと同類にされるのはまったく心外だ(←典型的なB型)。
 そんな、血液型診断を疑っているぼくだが、ひとつ気になることがある。
 それは「A型の人は病弱だ」ということ。いっつも風邪ひいてない? どうよ? 当たってんだろ? え? 違う? そりゃすまんかった。
 みんな自己中じゃないかよぉ。なんでBだけを責めるの? やめてくんないかな。
 人間よりも、地球に流れてる河川の血液型を調べた方がいいと思う。ガンジス川とか、ナイル川とか、アマゾン川とか、厚別川とか(ちっちぇよ)。
 世界を見れば一目瞭然だろ。みんなB型じゃねえか。