そしてブームは去ったのです

 
 テレビを見ていたら青山テルマという女性が映っていた。ジェヴェッタ・スティールのような聞き覚えのある歌だったが、顔を見たのは初めてだった。
 でっかい顔だな、と思った。もげちゃいそうな頭だった。幻覚かもしれないが……。
 
 ラジオでアン○ェラ・アキの新曲が流れた。なぜかイントロの数秒でわかった。
 確かデビュー当時、めざましテレビで生演奏をしていた。それを見たときから、彼女が大嫌いだ。なぜかはわからないが(考えるのも億劫)、生理的に受けつけない。さらに悪すぎるファッションセンスが火に油を注ぐ。あのTシャツがこれまた……キィーッ!
 はっきり言って、哀しみ通り越して怒りを覚えるくらい、微塵の才能もないと思う。ファンの人、ごめんなさい。いや、あやまる必要もない。
 ファンのあなた。あなたはここを見ていないだろうから書いておく。あなたは耳も目も悪い、つまり五感の全て――嘘ですごめんなさいごめんなさい。
 
 映画『神様の愛い奴』を観る。まさかDISCASにあるとは……。
 おそるべき、カルト・ドキュメント・ムービーだった。
 奥崎謙三について興味のある人は、下記のサイトを読むと手っ取り早い。よくできたサイトです。
 
奥崎謙三 神軍戦線異状なし
 
 以前にも書いた『ゆきゆきて、神軍』を観てからじゃないと、この映画の面白さはわからない。また、この映画を観ずして奥崎謙三を知ることもできない。
 内容についてはとても書ききれないが、根本敬が大きく絡んでいる、といえばおおよその察しがつくと思われる(高頻度で出演もしている)。
 
 戦争体験やその後の天皇糾弾、そして元軍曹の親族を撃つところまではシンパシーを覚えるんだけど、歳を追うごとにどんどん変な方向にブッ飛んでいく。
『神様の愛い奴』の冒頭は出所直後だか、既にして相当にブッ飛んでいる。思うに、高齢故の軽い痴呆と、長期間の独房生活による拘禁症が合併されたせいだろう。しかも奥崎には元々パラノイアの気質があって、それが獄中で精製されたものと思われる。
 内容については、おそらくほとんどの人は嫌悪感に耐えきれないと思うけど、ぼくはケタケタ笑いながら観ていた。本当に爆笑したシーンもいくつかあった。
 エンドロールの間、不思議な気持ちになった。怒りと憐れみと爆笑が渾然一体となっていた。不思議なことに、悲しみや嘲笑はそこにはなかった。
 そして、もう二度と奥崎謙三には触れたくないと思ったし、早く忘れたいと思った。
 それはすぐに実現するだろう。
 
 フライパンでスパムとコンビーフをチリチリ焼いてパンに挟み、バウルーで焼いていると、真理のいかずちが脳天を打った。
 これだけ温かい具をホットサンドにする意味がないのである。
 愕然としながら、額に汗が滲んできた。その汗が狼狽によるものなのか、真夏にホットサンドを作っているがための室温上昇のせいなのか、それとも両方なのかと思うとなおさら気が遠くなった。
 翌日、サンドウィッチにしてみた。こっちの方がうまい。
 回転椅子の上に立ちあがり、吊り戸棚の奥の方にバウルーを押し込めた。
「さよならバウルー」と念じて戸棚を締めてから、石油ストーブと一緒の場所に仕舞うべきだったかと、少し後悔した。